食米作りをやめて酒米『一本〆』を自社栽培 優しい食中酒は地元の名物も引き立てる
恩田社長は、東京農大で学んだ「蔵元杜氏」のはしりでもある。
■磨かない米の酒
できるだけ磨いた米で造る酒が当たり前のようになっている中で、ある飲食店が「米の旨味をしっかり感じる酒があると嬉しい」と言われた。
話を聞いてみると、その店ではお酒と共に出す料理として、刺身や焼き魚、湯豆腐など、さっぱりしたものだけではなく、味のしっかりした和洋中の料理も提供する時があるという。
例えば、魚の煮つけやハンバーグ、唐揚げ、グラタン、チンジャオロース、などジャンルを問わない。しかし、そうなると、日本酒から焼酎やワインにお酒が代わってしまうのだ。
「日本酒でそう言った料理に合うお酒があっても良いと思う。つまり、そのようなお酒が造れないか?と、聞かれたわけです。そこで挑戦してみることになったんです。
通常、米を磨かないで酒を造ると、米の外側にある成分が『雑味』となり淡麗辛口な味わいを目指すときに邪魔な存在になるため、たくさんお米を磨きます。あえてその『雑味』を取り込むことで複雑で濃厚な味に仕上げ、なおかつ、米の旨味が出やすい一本〆を使い、味のしっかりした料理に合うお酒を造りました」
■「鴨がネギ背負って……」を「鶴と油揚げ」に?
ある時、取引先の酒販店から「栃尾の油揚げ」に合う酒を造ってほしいと依頼があり、取り組むことになったという恩田酒造。
地元長岡のつまみの定番「栃尾の油揚げ」に合うお酒を造るのは簡単かと思いきや、完成までに1年半近くかかってしまったという力作だ。
「薬味を乗せて食べるさっぱりタイプとネギや納豆、キムチを挟んで食べるしっかりタイプの栃尾の油揚げ、この両方に合う味わいの酒を一本で現わすのに時間がかかって……」と恩田社長。
そして、この、なんとも言えず愛らしい鶴たちについても、「このラベルを描いたのはお話をいただいた酒販店の常連さん。
会社勤めをしながら、休日は街歩きのガイドをするなど、絵も上手でその酒販店のシャッターに描くほど。この女性が描くイラストがかわいらしく思わず手に取る方が多いそうです」と話す。
蔵元が自信を持って勧める日本酒を、いくつか紹介しよう。