愛犬に消臭スプレーかける飼い主、犬が見せた反応に「虐待では」と疑問の声 メーカーと獣医師に見解を聞いた
ペットの消臭効果があるスプレーを飼い犬に吹きかける様子が「虐待では」と、炎上する事態に。製造販売元のアース・ペットに製品の詳細、日本動物病院協会に犬側の事情を聞いた。

犬や猫など物言わぬ動物が傷つけられた際、人が傷つけられた場合以上の怒りを見せる人は決して少なくない。時には、その怒りが「暴走」のような形へと発展するケースも。
つい先日X上では、とある犬の飼い主が愛犬に見せた行動が、理外の炎上に発展したのをご存知だろうか。
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■犬にスプレー噴射、微笑ましい光景だが…
ことの発端は10月上旬、ポメラニアンを飼っているXユーザーが投稿した1件のポストである。
「シャンプーして2〜3週間経つと臭いがキツくなってきます。散歩後とか。で、背中にスプレーするのですが毎回この様子。苦手なのか? それとも気持ち良すぎて? 分からんけど20秒くらいしたらケロっとしてるし、割と効果あるので使ってます」と綴ったポストには、ペット用消臭剤のスプレー製品の写真と、愛犬を写した動画が添えられている。
動画の中では、かわいらしいポメラニアンがベッドの上で転がり回っている様子が収められていた。
■「虐待ではないか?」炎上する事態に
犬を飼った経験がある人なら分かると思うが、犬は匂いに敏感な生き物。シャンプー後、自身のベッドの上を転がり回る愛犬の姿はなんとも微笑ましいものである。
しかし、当該のポストは投稿されるや否や、疑問の声が相次ぐ事態に。
「どう見ても嫌がっていますよ。分からないんですか?」「犬がかわいそう」「これって虐待では?」「犬の嗅覚をナメるな」といった具合に犬の気持ちを代弁するユーザーが続出し、当該のポストが削除される事態にまで発展
中には「直接スプレーするとか信じられない」「これ、成分は危なくないの?」「なぜこんな商品を作ろうと思ったのか、理解に苦しむ」など、製品に対する疑問の声も散見された。
一方で、トリマーなど犬に関わる仕事をしているというユーザーからは「シャンプー後など、自分の匂いが消えてしまって不安になって転がり、匂いをつけるのはよくある行動」という指摘も寄せられている。
そこで今回は、物議を醸した行動について、有識者らに話を聞いてみることに。
■メーカーに「健康被害の可能性」聞いた

物議を醸した製品『天然成分消臭剤 ※ペットのデオドラント専用』(販売名:薬用消臭スプレー J)の特徴について、製造販売元のアース・ペットは「動物用医薬部外品であり、天然の緑茶乾留エキスとクロルヘキシジングルコン酸塩の効果により、ペットのニオイの元となる菌を殺菌し、しっかり消臭します」と、説明する。

開発の経緯については「ペットのニオイがどうしても気になる、という飼い主の皆様からの日常的なお悩みの声を非常に多く頂いておりましたので、しっかり消臭できるように、ペットに直接スプレーできる『動物用医薬部外品』を開発しました」と、振り返っている。
ちなみに同製品の用法は、犬猫の被毛から10cmほど離れた位置から、ニオイが気になる部位や汚れた部位に1~2回ほどスプレーすればOK。乾きが早いので、スプレー後もベタ付きにくいのが特徴だ。
続いては、一定数のユーザーが懸念していた「安全性」について尋ねてみる。
こちらについて、アース・ペットは「本製品は、原料の安全性データおよび試算に基づき、高い経口安全性を確認しております。犬は体の気になる部位を、舐めてしまいがちな生き物ですが、しかしスプレー箇所を舐めた場合でも、健康被害の可能性は極めて低いと考えられます」と補足。

加えて、「実際の実績といたしましても2020年以降、本体・詰め替え合わせて累計12万個以上を販売しておりますが、これまでにお客様から誤舐め等による中毒や副作用のお申し出は一切ございません」と、外野ではない、実際のユーザーからの反応ついて説明している。

なお、我が家の愛犬にプッシュしてみたところ、不思議そうな表情で数秒床に転がっていたが、その後は全く気にしたそぶりを見せず、普段通りくつろいでいる。消臭効果も高く、個人的には電車等での移動前に使用したいと感じた。
■獣医師に「犬とニオイ」の関係を聞く
続いては、犬がニオイに対して見せる「転がる」という反応について、公益社団法人「日本動物病院協会」(JAHA)に話を聞いてみる。
取材に応じてくれたのは、JAHA理事にして獣医師の吉田尚子氏。
渦中の動画にも見られた「外部からのニオイを受けて犬が転がる」という反応について、吉田氏は「犬には散歩中や庭などで外部の強い匂いのもの(人が良い、悪いと感じるのに関係なく、その犬が好んだり興味を持つ匂い)に対し、肩や背中をこすり付けたりする『Scent rubbing /Scent rolling』と言われる行動が見られます」と、説明する。
中には、セミやミミズの死骸、腐った木の実、猫や他犬の糞など、飼い主にとって強い不快感を覚えるものが対象となるケースもあるようだ。
この行動の目的としては、新しい匂いを自分の体につける、匂いの情報を集める、自分の匂いを覆う、などが仮説として挙げられるが、明確にはなっていないという。
しかし今回のケースは「飼い主が意図して犬にニオイをつけた」という点が、前出の事例とは大きく異なる。
こうしたケースについて、吉田氏は「シャンプーや雨天の散歩後に水に濡れた状態に対し、背中を下にして転げ回ったりすることがあります。これは匂いだけでなく、温度、感覚への刺激や違和感が原因となる可能性が高いです。一概に嫌がっているということだけでもなく、気持ち良い、楽しくて興奮してしまう、という様子の場合もあるようです」と、説明する。
犬が尻尾を振る行動を「喜びの感情の現れ」と捉えている人は多いと思うが、実際には不安や緊張、軽快の現れとして尻尾を振るケースもある。このように「こういった行動を見せたから、犬はこう感じている」と決めつけるのは、早計と言えるだろう。
また、「犬によっては匂いが嫌、またはスプレー自体が普段と違う刺激で不安になった、などのストレスから転位行動のひとつとして、現れる場合もあるかもしれません」とも推測していた。
■「犬の数分の行動」だけで判断する難しさ
これらの回答から分かるように、犬にとって「ニオイ」とは、単に好き・嫌いを感じるためのものではなく、周囲の環境やそこにいる動物・人の状態を知るための重要な情報源である。
また、匂いを嗅ぐことは、脳の刺激やストレス発散として、犬のウェルビーイングにも重要とされている。
吉田氏は「犬は優れた嗅覚により、ニオイが他の犬や人とのコミュニケーションにも役立ち、相手の存在や状態を知る手がかりになります。また、そこに残された匂いから現在だけでなく、過去の状況も推測できます。人間は犬のこの能力を利用し、薬物の捜索、行方不明者の発見、さらにはがんや発作の検知などに活用しています」と、説明していた。
このように、犬が新しい匂いに興味を示したり、匂いのする場所に身体をこすりつけたりする行動を理解するうえで、「ニオイは重要な環境情報である」という視点は重要となってくる。
しかし、吉田氏は「普段と異なる匂いに対して犬がどのように感じながら、特定の行動をみせるのかは、匂いの種類や状況、犬それぞれの経験、飼育環境、個体差などによっても異なります。それはある香水に対し、人の好き嫌いがバラバラなのと似ています」とも説明していた。

つまり、犬が匂いに反応した行動だけで、その目的や感情を一概に判断したり予測することは非常に難しいのだ。
こうした実情を踏まえ、吉田氏は「今回のスプレー噴射後の行動が、有害かもしくは自然な行動の範囲かどうかは、いずれも数分のワンちゃんの行動だけで判断することは難しいと思われます。少なくとも、噴霧後のこの子の皮膚の状態や、呼吸(くしゃみや鼻汁)、涙の有無などの刺激によるものが誘発されたり、繰り返されることへの反応(逃げ回るなど)の有無など、複数の状況を合わせて判断する必要があると思います」と、説明していた。
物言わぬ動物たちを慈しむのは、人間の美徳。しかし、前後の状況を鑑みずに動物たちの気持ちを「分かったつもり」になり、集団で個人に誹謗中傷の声をぶつけるのは、たとえ正義感からの行動であっても、果たして美徳と言えるだろうか。
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■執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。道路・鉄道ネタに関する取材で、国土交通省や都道府県警、全国の道路事務所、鉄道会社に太いパイプを持つ。
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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)




