魚売場の鮭から現れたアニサキス、人体への影響に「怖すぎる」の声 東京海洋大学に正体を聞いた

スーパーの鮮魚コーナーの秋魚から発見された「奇妙な糸」が話題。その正体・アニサキスの厄介すぎる恐ろしさに、驚きの声が上がっている。

2025/09/25 04:45

■食中毒の「統計」をそのまま受け取るのは危険

病気の原因や感染経路といった傾向を理解するのに重要となるデータが「統計」だが、それがアニサキスの食中毒となると、事情が少し変わってくる。

アニサキス幼虫
(画像提供:嶋倉邦嘉氏)

たとえば、アニサキスが寄生している魚の具体例について、嶋倉氏は「色々な海産魚が原因となりますが、厚生労働省の食中毒統計上では、近年はサバ、イワシ、アジなどによる食中毒事例が多いようです」と説明。

これを聞いて「サバやイワシ、アジが危険なのか!」と早合点をした人もいるかもしれないが、ここには「統計の落とし穴」が存在する。まず前提として、なんと日本近海で獲れる海産魚のうち、アニサキスの寄生報告がある魚は150種類以上に及ぶという。

こちらの事実を踏まえ、嶋倉氏は「たとえば、にぎり寿司1人前や、刺身の盛り合わせを食べた場合、どの魚に寄生していたのかが分からないので、食中毒統計では『複数の魚種名』、あるいは魚種が『不明』として載ってしまいます」と、説明している。

直近5年間の食中毒統計によると、原因魚種として「サバ」が毎年トップに君臨している。実際、サバにおける寄生率は高く、筋肉内寄生が認められるケースもあり、内臓を取り除いた加工品から発見される場合すらあるという(冷凍で流通した場合、虫は死亡している)。

サバの水煮から発見されたアニサキス
(画像提供:嶋倉邦嘉氏)

しかし、これは「150種以上いる魚の中でサバの感染率がぶっち切りで高い」という証明にはならない。

嶋倉氏は「たとえば、昨夜食べたのは『しめさば』だけ、『あじのたたき』だけというように、医師の問診で1種類の魚として挙げられるのは大抵が多獲性の大衆魚ですから、イワシやアジなどは原因魚種として表面化しやすいのではないでしょうか」と、分析している。

つまり、アニサキス自体は様々な種類の魚に寄生しているが、それが「統計」という形で顕在化し、目に触れやすいのは、多くの一般市民にとって身近な「大衆魚」というカラクリである。

また、食中毒による腹痛を発症したとしても「病院に行くかどうか」は個人の自由である。読者諸君の中にも「風邪は自力で治すから、病院には行かない!」という思想の人物がいるのではないだろうか。

そして、食中毒の統計というのは症状の起こった人物が病院へ行き、医師によって「アニサキス症」と診断されない限り、統計上のデータには載らない。

つまり、胃薬を飲んで自宅で耐えた、大した痛みではなかったから放置したら治まった、などの事例の中には、じつはアニサキスが犯人だったという潜在的な危害もあり得るワケだ。

こうした事情を踏まえ、嶋倉氏は「実状では、統計の数以上に食中毒の発生件数は多いと思われます。そのため、私たちは常日頃からアニサキスに気を付ける必要があると言えます」と、注意を喚起している。

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■悪夢のアニサキスアレルギー

食中毒を防ぐのに有効なのは、やはり調理加熱。冷凍処理も有効で、一般的に「死んだ寄生虫は無害」と言われているように、死んだアニサキスやその欠片を食べてしまったとしても、アニサキス症に苦しむことはない。

それならひと安心…と言いたいところだが、この世には「アニサキスアレルギー」というものが存在するのだ。

サケに寄生したアニサキス
(画像提供:嶋倉邦嘉氏)

専門家の嶋倉氏が「かなり厄介です」と眉をひそめる当該のアレルギーは、鶏卵や牛乳などで引き起こされる食物アレルギーやスギ花粉症と同様に、アニサキスに特異的な抗体(即時型アレルギーに関わるイムノグロブリン E、IgE)ができると、アレルギーによる諸症状が起きてしまうという疾患。

厄介な点としては、食中毒と違ってアニサキスアレルギーの場合、発症に「虫の生死は関係ない」という事実が挙げられる。

さらに、アレルギーを引き起こす原因物質(アレルゲン)として約15種類のタンパク質が知られており、そのうちの半分以上は虫体の構成成分ではなく、虫が体外へ分泌する成分であるという。

アレルゲンが15種類あるということは、当然人によって原因となるアレルゲンは異なる。そして、これらのアレルゲンは通常の調理加熱や冷凍処理では「アレルゲン性が失われにくい」という、悪夢のような特性を秘めているのだ。

嶋倉氏は「すなわち、加熱された魚肉、あるいは魚肉の加工品でも、アニサキスの分泌成分に汚染されてアレルゲンが含まれていたら、アレルギーによる諸症状が起きるリスクがあります。実際に、アニサキスアレルギーと診断された方が、魚類の出汁を使った料理で症状が出たという話を聞いたことがあります」と、補足している。

スケトウダラに寄生したアニサキス
(画像提供:嶋倉邦嘉氏)

現時点では、アニサキスによる食中毒が原因で死亡したケースは報告されていない。しかし、アレルギーによる重篤な症例ではアナフィラキシーショックを引き起こし、生命の危険に晒される場合も起こり得る。

アニサキスアレルギーは、日本食のように海産魚類を高頻度で食べる食文化のある国々でも、問題視されつつあるアレルギー疾患の原因のひとつなのだ。

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■注意して安全に魚を食べよう

…と、ここまでの取材内容を読んで「もう絶対に魚は食べない」と決意した読者もいるかと思うので、ここから先は良いニュースをお伝えしたい。

まず、人体に寄生したアニサキスの幼虫は成長することなく、腹痛等を伴うものの、1週間程度で死亡する。当然、人体で卵は生まないため、それ以上の被害は発生しない。

また、養殖によって人工の餌で育てられた魚は、アレルギーのリスクは回避しきれないが、アニサキス症になるリスクは低い

そして現代には、紫外線(370nm付近)を当てると虫体が青白く発光することを利用した「アニサキスチェッカー」という文明の利器が存在するのだ。

その用途について、嶋倉氏は「魚の切り身などに使うと、ピンポイントで虫を見つけて取り除けます。しかし、筋肉内部の虫まで見つけ出すのは難しいでしょう。手慣れた人でも虫体の見落としがあるかもしれませんが、アニサキスチェッカーは、事故を未然に防ぐことへの有効性が高いというのは事実です」と説明している。

一般的にもネット等で入手しやすく、鮮魚店でも導入が普及しつつあるほか、釣りを愛好する人々にも広まっているという。

【今回話題となったポスト】


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■執筆者プロフィール

秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。

新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。

X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。生活の中で遭遇した「変わった生き物」に関する専門家取材を多数手がける。

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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ

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