HIV陽性を理由に不採用になった警察官 市を訴えた「差別訴訟」で和解成立
HIV陽性の現役警察官が、別都市の採用試験を受けて不採用に。「差別」を主張し市を提訴したところ、和解により賠償金を勝ち取った。
アメリカで、病歴を理由に不採用となった現職の男性警察官。賠償を求めて市を訴えていたが、このたび和解が成立した。『Fox News』『Daily Beast』などが伝えている。
■別都市の警察官採用試験を受験
2019年3月、テネシー州メンフィス警察に所属する男性警察官が、ナッシュビル警察の採用試験を受けた。妻がナッシュビル市で新しい職を得たため、娘を連れて同市に引っ越したところだった。
男性はメンフィス市に残って警察官の仕事を続けていたが、ナッシュビルまでは車で片道3時間半と遠く、家族と暮らしたいと考えてのことだったという。
■最終の健康診断へ
2020年2月25日に身辺調査を終えて、筆記試験、体力試験に合格した知らせが男性の元へ。あとは最終の健康診断をクリアすれば、ナッシュビル警察に採用になるはずだった。
しかし男性が病院でさまざまな検査を受けたところ、最後に医師から血液検査の結果で「HIV陽性反応」が出たことを告げられた。男性は自身がHIV患者であることを知っており、2015年に感染が発覚して以来、現在までウイルス抑制状態にあるという。
■「不採用通知」届く
そして検診の翌月、男性はナッシュビル警察から「不採用通知」を受け取った。通知書には、「米軍に入隊可能な健康基準を満たしておりません。よって警察官トレーニーに必須のアカデミー参加を推薦できない状況です」などと綴られていたそうだ。
ナッシュビル市は警察官の採用時にアメリカ軍の入隊規定を適用しており、当時のアメリカ軍では、HIV陽性者の入隊自体が対象外だったのだ。なお現在は、条件はあるがHIV陽性者でも入隊可能だという。
納得できない男性は、ナッシュビル警察に再審査を求めた。男性のHIVは無症候期にあって、ウイルスを抑制できている。そのため職員や市民を感染の脅威にさらすことはなく、職務遂行に何ら問題はないとする医師の意見書も提出したという。
■市と和解成立
しかし警察側は、男性の申し立てを却下。これを受けて男性は、病歴を理由にした不採用は差別に当たると主張し、ナッシュビル市を訴えた。同市がアメリカ障害者法に違反し、男性の市民権を侵害したとして救済措置を求めたほか、精神的苦痛を負い正当な賃金を得る機会を失ったとして、金銭賠償も求めたという。
複数回の審理を重ね、2024年3月22日、男性とナッシュビル市とで和解が成立。同市が、男性側に慰謝料などを含む賠償金約2,200万円を支払うことで合意した。
加えて、ナッシュビル市の公務員の健康検査規定が改定され、「受験者が警察官の職務に適した健康状態かは個別に判断する」との文言が追加されるという。
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(取材・文/Sirabee 編集部・宮 ちてら)