二度買うのを見送った「GU」のシャツ …でも結局買ってしまう「価格のアンカー」効果とは?

【鈴木貴博『得する経済学』】何度も悩み通して買わないと決めた商品を購入してしまった。そこにはとある行動経済学が潜んでおり…。

2023/11/12 07:00

GU

「あっ新宿のビックロなら在庫があるな。よし、ポチっと」

このコラムでも以前紹介した、GUの「ORDER & PICK(オーダー&ピック)」機能を使って長袖のポロシャツを購入しました。渋谷のお店で見かけて気になって、試着もしたのですが見送った2,490円のポロシャツでした。それがシーズンオフに990円に値下げされて心が動いたのですが結局取りやめに。そしてこの週末、東京の下町の北砂に出かけたところ、店頭で590円に値下げされていました。

価格が変われば心も動きます。590円という値段を目にしてついに買うことにしたポロシャツですが、その顛末を記事にしたいと思います。

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■狙いはレトロなデザインのシャツ

最近流行のレトロデザインのシャツ。私が十代の頃に流行っていた色柄がさまざまなファッションアイテムでリバイバルしています。大量生産で同じような柄が街にあふれていた昭和の当時の感覚ではダサいと思っていたこのデザインが、今、40年の時を経てみるとなんともなつかしく感じるものです。

この長袖ポロシャツも実際にGUアプリで眺めてみると若いモデルの子が着ていると、なんともいえずカッコいいのです。欲しいなと正直感じました。

ところがです。問題は私が着てみるとどうかという話です。フィッティングルームで着てみると、鏡の中の自分はなんというかダサいのです。理由はうまく言えないのですが、昭和の時代のドラマに出てくるおじさんみたいなのです。

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■「あきらめ」のジャッジ

一回目、2,490円のときはフィッティングルームでさんざん悩んで見送りました。レトロはZ世代の若者が着るから新しく見えるのであって、おじさんが着たら私が十代に頃に感じた、

「おじさんの服、ダサいなあ」

と言う記憶がフラッシュバックするだけなのだと納得したのです。

それで夏も終わりの9月、このアイテム、なぜか夏の間ずっと売れ残っていたのです。理由はわかります。酷暑だったのです。わたしもなぜ夏のアイテムとしてレトロな長袖ポロシャツが売り場に置いてあったのかはよくわかりません。それで残暑の季節に990円に値下げになったのです。

「色合いがだめだったのかもしれないな」

まだこのポロシャツに未練が残ったわたしは、色違いのホワイト地のボーダーシャツを試着してみました。なんか、昭和の頃によくうちに来てくれた電気屋のおじさんみたいです。やはりダメです。

俳句に、「手に取るなやはり野におけ蓮華草」という名句があります。眺めているからこそ美しいのであって、自分で手にとってはいけないファッションというものはあるのだと再度見送ることになったのです。

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■購買するかは「価格のアンカー」で変化

それで冒頭のシーンです。市場調査で東京下町のアリオ北砂に出かけました。するとこの商品が590円に値下げになっていたのです。

人間の心の中には「価格のアンカー」というものが存在します。わたしの場合の価格のアンカーは、GUのポロシャツが2,490円だとそれは普通。990円ならお得という感覚。しかしこの「お得」という基準には「お得だからといって無駄なものを買うと逆に損をする」という感覚がもれなくセットでついています。二度目に見送ったときに買わなかった理由はここです。

ところがポロシャツ一着590円となると、心の中のアンカーが再度変わります。わたしにとってのポロシャツ590円は「一度着たらそれで元がとれる」です。

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■北砂から新宿へ…

これを着て、同世代の仲間と居酒屋で飲んで、「おー懐かしいなぁこの柄」みたいな話で楽しくなって、「うぇい」と言って撮った写真をフェイスブックにアップすればそれで590円は元がとれます。

そしてここからがいつもの手順です。北砂の店頭にはわたしのサイズが品切れでした。GUオンラインでも品切れですが、GUアプリで在庫のあるお店を検索すると東京・新宿の店舗にあることがわかったので、それをスマホのORDER & PICK機能で購入して後日取りに行けばいいのです。

こうしてわたしの洋服ダンスには、一回着れば元がとれるシャツがまた一枚増えたのです。

「合計すれば結構な枚数になったな、これで…」

と思う今日この頃でした。

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■著者プロフィール

鈴木貴博

Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。

今週は「値下げにともない人間の購買心理はどう変わるのか」をテーマにお届けしました。

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(文/鈴木貴博

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