激しいぶつかり合いやスパイ活動も… 防衛大名物の「棒倒し」はまるで集団格闘技

防衛大学校の開校記念祭で行われる「棒倒し」。彼らにとって「絶対に負けられない戦い」であるその競技の詳しい内容を元自衛官の筆者が解説する。

2023/11/09 14:30

国旗

自衛隊の大学である防衛大学校で行われているイベントに「棒倒し競技会」がある。荒々しく怪我人が続出するというその競技について、元自衛隊幹部の筆者が解説する。


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■棒倒し競技会とは

例年11月にある開校記念祭(一般的な大学でいう学園祭)において実施され、1年生から4年生までが混成になった、「大隊」と呼ばれる4つのチームに分かれて競い合っている。

ルールはシンプルだ。1対1の計2チームで行い、立てた長い棒を先に倒した方が勝ち。棒の周囲にいる大勢の守備に飛び乗り、大勢で勢いよく攻める様子は大迫力かつ衝撃的であり、非常に見応えがある。その様子はまるで集団格闘技であり、とても荒々しい。YouTubeなどで動画がアップされているのでぜひ一度見てみてほしい。

筆者は防衛大にも行っていたものの、一年時の棒倒し以前に中退しているので、棒倒しは経験していない。

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■危なくて救急車が常時待機している?

耳にするだけで身構えてしまう棒倒し競技は、実態として怪我人が続出するほど危ない。2分間の試合中で殴るのは禁止であるが、相手の攻撃を阻止するために掴み合いや引っ張り合い、倒し合いとなる。

筆者は一般大卒業であるが元幹部自衛官で、同期、先輩、後輩に沢山の防衛大出身者がおり、棒倒しで怪我をした人のエピソードは少なからず耳にしたことがある。筆者の先輩だった防衛大出身者は「2分間ただ敵の首を絞め続けて終わった」と言っていた。相手をわざと怪我させる意図はないだろうが、棒倒しという競技がいかに彼らにとって重要なものなのかというのがわかる。

棒倒しが危険であることには間違いないが、そばには救急車が待機しており、万が一のための体制や危険見積は十分に行われている。爪を短く切ったかどうかの点検もあり、怪我を常に想定した安全管理の上で長年行われている。

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■勝利のために諜報活動をする者も

前述の通り、防衛大は学生全体が計4個の大隊と呼ばれる集団で分けられていて、普段の生活も各大隊に分かれて行っている。

生活している建物も各大隊で異なり、大隊が違えば面識がないほど関わりも少ない。棒倒しは各大隊の威容を示す「負けられない戦い」なのだ。卒業後は基本的に自衛官となる自衛隊の大学であり、普段から訓練したり戦いのことを学んだりしていることも相まって、徹底的に勝ちに拘っている。

棒倒し中の人員の役割別に何度も作戦会議を行ったり、全体としても何度も訓練したりしている。勝つための執念として、他の大隊の作戦等の情報を入手するための諜報(スパイ)活動を行う者も毎年現れる。

恒例の現象なので、各大隊情報を守るための徹底した注意喚起を欠かさない。情報を盗むのは姑息だと思う読者もいるかもしれないが、勝負事において情報はかなりの価値があり、戦いを優位に進めるための一つの重要な手段である。今やビジネス書のようにもなっている、孫氏の兵法にも「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」とあるように、古今東西変わらない戦いの原則なのだ。

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■棒倒しに対する防大生の熱量とは

棒倒しの各大隊トップは、棒倒し総長と呼ばれる役職につく。(懐かしさを感じた読者は、やんちゃをした過去があると思われる)。

筆者は防大卒ではないが、周りには総長等の役職を経験した者がいるため、彼らにとって棒倒しがいかに誇りで、凄い熱量と共に取り組んでいるかは理解しているつもりである。筆者はお祭り大好き人間であるが、お祭りで自分の組織が一番だと誇りを持って(時に揉めながら)取り組む感覚に近いのではないだろうか。

棒倒しが行われるのは開校記念祭であり、祭典の興奮がさらに高まる。そんな棒倒しは、じつは一般公開されており、無料で観覧することが出来る。今年の場合は、今月11月の11日と12日の土日に防衛大学校において開催される。ぜひ一度その迫力の真剣勝負を見てみてほしい。

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■執筆者プロフィール

安丸仁史(やすまるひとし):1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。

職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。自称お祭り系インスタグラマー。お祭りとパンクロックをこよなく愛する。

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(文/安丸仁史

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