ヤフオクで500円のトランペット、その正体に衝撃走る 80年前の「企業努力」に思わず感動…
ネットオークションで、古びたトランペットを500円で購入。あまりに予想外すぎる正体が判明し、ネット上に衝撃が走っていたのだ…。
人が「掘り出し物」という言葉に惹かれるのは、金銭的価値だけでなく、物品そのものが発している「歴史のロマン」に依る部分も大きい。
以前X(旧・ツイッター)上では、ネットオークションで購入した古びたトランペットの「予想外すぎる正体」が話題となっていたのをご存知だろうか。
【関連記事】ハードオフで買った千円のギター、内部を見て驚き… 予想外すぎる「正体」に称賛相次ぐ
画像をもっと見る
■トランペットに彫られた漢字を見ると…
今回まず注目したいのは、関東地方で古物商を営むXユーザーのエンカイさんが投稿した一連のポスト。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」と、絞り出すような叫びが綴られた投稿には複数枚の画像が添えられており、どうやらエンカイさんはネットオークションにて「ジャンク品」の古びたトランペットを520円で落札したようだ。
予想以上に状態が悪かったのかな…と心配しつつ、トランペットのボディをよく見ると…そこには「陸軍軍楽隊」と、衝撃的すぎる5文字の刻印が確認できたではないか。
■「とんでもない掘り出し物」とネット民驚愕
ここ日本に「陸軍」が存在したのは、今から約80年以上も昔のこと。つまり件のトランペットも、それに準ずる由緒正しき「ヴィンテージ品」である。しかも続くポスト投稿では、楽器から音が鳴っている動画まで確認できたのだ。
こちらのポストは人々に多大なる衝撃を与え、投稿からわずか数日で8,000件以上ものリポストを記録する事態に。他のXユーザーからは「戦時中に製造された楽器か…!」「こんな貴重なトランペットが520円ってどういうこと?」「とんでもない掘り出し物でワロタ」「あまりにも渋すぎる」などなど、驚きの声が多数寄せられていたのだった。
ポスト投稿主・エンカイさんは、前出の通り古物商を営む傍らで「戦前の金管楽器製造」や「軍楽隊の歴史」について調査しているという人物。古銭や化石など古い物が好きな性分に加え、学生時代は吹奏楽部に所属していた…ということもあり、これらのジャンルに興味を抱いたそう。
今年7月11〜17日かけては、都内にて「戦前の国産管楽器展」と題した展示会を実施し、当時の楽器や軍服、写真資料など貴重な品々を公開していたのだ。
件のトランペット購入〜ポスト投稿までの経緯について、エンカイさんは「『ヤフオク!』の出品画像から、戦前の日本管楽器製のトランペットということまでは分かっていました」「しかし、いざ届いてみたら陸軍軍楽隊の刻印が入っていて驚き、そのままの勢いでポストしました。全体的にボロボロで、色々な部位が壊れているのに一応音が鳴り、さらに驚きました」と、振り返っている。
古い楽器に造詣の深いエンカイさんは、今回のトランペットのメーカー「日本管楽器株式会社」(通称・ニッカン)に関する情報にも精通しており、興味深いコメントを多数寄せてくれた。
そこで今回は、かつてニッカンの吸収合併を行なった「ヤマハ株式会社」に、詳しい話を聞いてみることに。その結果、トランペットに秘められた「歴史の重み」が、改めて明らかになったのだ。
■ヤマハ社員の見解に思わず感動…
取材に際し、まずはヤマハと日本管楽器の関係、歴史について尋ねてみる。すると、1937年(昭和12年)にニッカンが設立された際に、『日本楽器製造株式会社』(現・ヤマハ)が出資を行なっていたことが判明したのだ。
ヤマハ管楽器の広報担当者からは「その後の63年(昭和38年)頃、品質研究と生産向上を目指して、日本管楽器と日本楽器製造の両社の技術者の技術交流が進みます。その結果、66年(昭和41年)3月に日本管楽器からインペリアル・トランペット、同年6月に当社からトランペット『YTR-1』を発売しました」「そして70年(昭和45年)、日本楽器製造が日本管楽器を吸収合併いたしました」との回答が寄せられている。
ヤマハといえばピアノだけでなく、日本を代表する総合楽器メーカー。そんなヤマハにとって66年は、記念すべき自社ブランド管楽器の第1号が製造された年なのだ。なお、ニッカンの前身は1892年(明治25年)に始まった…と言われているが、こちらは諸説あるそう。
続いては今回話題となったトランペットの詳細について、ボディに彫られた「陸軍軍楽隊」や、皇紀2602年(昭和17年)といった情報と併せて話を聞いてみる。
こちらの質問に対し、ヤマハ担当者は「昭和17年頃の品質や国産楽器事情については残念ながら社内記録が残されていないため、申し訳ないのですがお答えできません」と前置き。
その上で、「前年の1941年(昭和16年)12月に勃発した太平洋戦争は、金属を主材料とする管楽器の生産に大きな苦難をもたらすものであり、日本管楽器も設備の一部を航空機部品の生産に切り替えていた時代です」「その後、軍需が拡大して44年(昭和19年)5月には、社名を『日管航器株式会社』と改名した(戦後、再び日本管楽器株式会社へと戻る)ほどです」と、当時の楽器メーカーがいかに苦境に立たされていたか伝わってくるエピソードを語ってくれた。
加えて、「こうした時代背景を考えると、昭和17年に作られたとされる当トランペットは貴重な品だと思いますし、個人的には当時のニッカンメンバーのひたむきな努力があったことを感じます」と、同じ「楽器に携わる人間」として、80年前の同業者に敬意を表す、なんとも粋なコメントを寄せてくれたのだ。
「メイドインジャパン」が世界に通じるブランドとなる、その遥か大昔に生まれた1本の国産トランペット。こちらを作るために当時の人々が重ねた努力、そして楽器に込めた熱い思いは、ヤマハをはじめとする現代の企業に受け継がれていることだろう。