カブトガニの血液に代わる試薬とは… 医薬品検査の新基準をめぐる議論
新型コロナウイルス感染症のワクチン試薬にも必要なカブトガニの血液から作る医薬検査方法が、いま問題視されている。
カブトガニは古生代からほとんど姿を変えずに生き残り、「生きた化石」と呼ばれる節足動物。その血液にしかない特性が生かされワクチンなどの医療試薬として利用されてきたが、いま絶滅の危機に瀕している。『Science Magazine』が代替品への草案発表について詳しくレポートした。
■カブトガニの血液採取をストップ
米国薬局方(USP)という非政府組織が、カブトガニの血液の人工的な代用品の使い方に関する案内書の草案を公開した。この組織は、薬品や医療機器の検査基準を精査する規制に関わっている。
案内書の目的は、カブトガニの血液を採るために毎年何十万匹ものカニを捕獲し、そのうち約3割が死んでしまうという現状を改善することだ。
カブトガニは「生きた化石」と呼ばれるほど古代からその形状を変えておらず、卵は渡り鳥であるシギ類の重要な食糧である。自然保護団体などは、カブトガニとシギ類の生存が危機にさらされていると警告している。
■ワクチン検査にカブトガニの血液
1970年頃、カブトガニの青白い血液が、細菌の有害な副産物であるエンドトキシンに反応して固まるという特徴が発見された。
血液から作られたリムルス変形細胞ライセート(LAL)という凝固酵素は、エンドトキシンというコレラや赤痢などの病原菌に反応して凝固させる。
抗がん剤、新型コロナウイルス感染症のワクチンをはじめ、心臓ペースメーカーなど病原菌の混入を防ぐための検査に使用されている。
■大量捕獲で絶滅の危機
カブトガニは人工飼育ができず、春に繁殖のため大西洋岸に上陸するところを捕獲して、血液を採取する方法が取られてきた。
2016年には年間約40万匹のカブトガニが捕獲されているという。新型コロナウイルス感染症のワクチンなどの普及に伴い、現在は年間約60万匹が犠牲になっているというデータもある。
保護団体の統計によると、血液採取後のカブトガニの70%以上は生存率があるという。しかし、ストレスで繁殖をやめたり、失血で死亡してしまったりする個体も多い。
■製薬会社は代替品に消極的
USPが提案しているのが、合成代替品のrFCと呼ばれるタンパク質である。これは1990年代から存在しており、欧州では2019年から使用が認められている。
しかしアメリカではまだ承認されておらず、業界の多くはカブトガニ由来のタンパク質LALを使い続けている。
医薬品基準査定のUSPは、2024年までに代替品使用を承認したい意向だが、代替品の安全性と有効性を証明するために多大な検査費用がかかる。
そのうえLALの供給元である企業や研究者ら間で、内紛が起こる懸念も指摘されている。
一方、自然保護団体や動物愛護団体はUSPの提案を歓迎しており、代替品がカブトガニの保護と医薬品の安全性に貢献すると考えている。
当局は年内にパブリックコメントを募集される予定で、2024年に最終決定される可能性があるという。
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(取材・文/Sirabee 編集部・本間才子)