怪しい古民家で遭遇した「異形の者」たちの宴… その世界観に魅了される人が続出
異形の者達が囲む食卓に人間が迷い込んだら…。独特すぎる世界観に魅了される人続出。
もしこの世の者でない“異形の者”が住む古民家に、迷い込んでしまったら、あなたはどうするか──。今ネットでは、そんな独特な世界観を再現したアート作品が「心を掴まれる!」と話題を呼んでいる。
■ようこそ、異形の者達の食卓へ…
「なんだコイツ」「人間っていうらしいぞ」「珍しいな」「喰うか?」「腹へってるか?」「泊まってくか?」「いくつだ?」「あんま質問ばっかすんな」「腹へった」「これ喰え」「ゆっくりしてけ」と会話形式のコメントを添えて、作品写真を投稿したのは、X(旧・Twitter)ユーザーの浅野暢晴さん。
写真には、古民家に置かれたちゃぶ台を囲む、灰色っぽい色をした明らかにこの世の者ではない異形の者達の姿が映り、そこに一人だけ実物の人間の少年が座っている。食卓には、これまた何だかわからない食べ物らしき物がずらり…。果たしてこの少年は、招かれた客なのか、それとも招かれざる客なのか…。
投稿はリプライ形式で全13回に渡って物語が展開していき、少年は何度もこの場所に遊びに来る。次第に少年も成長していき、そのたびに異形の者達のセリフも微妙に変わる。そして最後には…。
入ってはいけない世界に迷い込んでしまったというストーリーであるが、不思議と怖くはなく、どこかほっこりとしていて、思わず引き込まれる独自の魅力を放っている。見ていくうちに異形の者達が可愛く見えてくるから、それも不思議である。
「なんだコイツ」
「人間っていうらしいぞ」
「珍しいな」
「喰うか?」
「腹へってるか?」
「泊まってくか?」
「いくつだ?」
「あんま質問ばっかすんな」
「腹へった」
「これ喰え」
「ゆっくりしてけ」 pic.twitter.com/06XRGewjWh— 浅野暢晴 (@asanonobuharu) September 3, 2023
■「ほっこりしてしまった」と反響
投稿作品の世界観に魅了されたユーザーは多く、「茨城弁ですかね?なんか親近感湧いて実家帰ってる気分になりました!素敵な作品」「大好きな世界観!」「とても柔らかくて優しそうに見えます」「今まで芸術とか興味なかったけど一目惚れした」などと大絶賛されていた。
また、ずっと「腹減った」と連呼するキャラがいるなど、“異形の者”の詳細が気になる人も多かったようだ。
記者は、そんな不思議すぎる世界観を作り上げた投稿者・浅野暢晴さんを取材した!
■タイトルは「異形の食卓」
この一連の作品のタイトルは「異形の食卓」。9月9日から10月9日まで群馬県中之条町で行われている国際現代芸術祭「中之条ビエンナーレ2023」に展示されている作品だ。
独特な雰囲気を醸し出している撮影場所は、中之条町にある「やませ」という古民家。県の重要文化財になっている歴史的な建物である。ちなみに投稿に出てくる人間役モデルは浅野さんの息子さん。
この作品のストーリーはどのように発案したのだろうか。
「『やませ』と呼ばれる古民家は昔、人が住み生活していた場所ですが、今は誰も住んでいません。そこには、人の気配だけが残されています。そんな人の気配に形を与えたいと思い、ちゃぶ台を囲む異形の人たちを作りました」(浅野さん、以下同)。
ちゃぶ台の周りには、合計11人の異形の人が座っているが、一席だけ空けてある。これは、そこに鑑賞者に座ってもらい、この世の向こう側の世界を感じて欲しいという考えから生まれたものだそうだ。
このポストの面白いところの一つは、作品がストーリー仕立てになっているところだが…。
「このストーリーは、作品コンセプトというよりは、息子達と会場に行った際に撮った写真を見て、ツイートする際に面白おかしく言葉を足してみた感じです」
なるほど。写真を投稿していく中で、ストーリーが組み立てられていったというわけである。それにしても、投稿からは、文学的な物語性を感じられ、作品を見事に表現しているといえる。
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■私たちの身の回りにいるけど、目に見えない存在
沢山の異形の生き物? やテーブルにのっている食べ物のようなものまであるが、作品は合計で何体制作したのか。
「大きいものから小さいものまであるのは、陶で作られた彫刻作品です。名前は『トリックスター』と呼ばれています。そして、あの和室の中に約600人のトリックスターがいます」。
なんと合計約600人…! 一体一体手作りと考えると、途方もない数だが、3ヵ月ほどで完成させたそうだ。ちなみに浅野さんが呼ぶ「トリックスター」は全て3本足である。3本足に何か意味はあるのだろうか?
「2本足の人間と、4本足の動物の間に立つ存在として、3本足の生き物を作っています。八咫烏(ヤタガラス)の様な、人と神様の間を繋ぐ様な存在をイメージしています。彼らは、闇を好む存在なので、みな黒色。顔や姿は異形の存在ですが、人間に害を与える存在ではありません」。
最後に、浅野さんはこう語ってくれた。
「じつは、私たちの身の回りにいるけど、目に見えない存在なのですが、それを彫刻として具現化した作品なのです」。
自分たちの周りにいるけれど、目に見えない存在…。それがあのトリックスターの正体なのだった。そんな設定を伺うと、作品一つ一つの新たなストーリーを勝手に思い浮かべてしまいそう。
異形の者たちと出会いたい方は、ぜひ会場に足を運んでみてはいかがだろうか。
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(取材・文/Sirabee 編集部・黒森ぬぬ)