宅急便、50年前の名称が覚えづら過ぎる… ヤマト運輸の「ファインプレー」が英断だった
ジブリの名作タイトルでお馴染みの「宅急便」だが、同サービスを導入している「企業名」をご存知だろうか…?
我われが日常的に使用している「宅急便」サービスだが、じつは「宅配便」と異なり、商標登録されたサービス名であることをご存知だろうか。全国の10〜60代の男女855名に、こちらに関するアンケート調査を実施してみると…。
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■「宅急便」の会社はヤマト? 佐川?
スタジオジブリの名作アニメ映画『魔女の宅急便』タイトルにもその名が冠せられている宅急便。
今回の調査で「『宅急便』サービスを実施している会社はどちら?」なる2択問題を用意したところ、全体の89.5%が「ヤマト運輸」を選択していたのだ。なお、残る10.5%が選択したのは「佐川急便」である。
社名に「急便」が入っているため佐川を選ぶ人も少なくないのでは…と予想していたが、じつに9割もの人々が「宅急便=ヤマト」と、正しく認識していたことが明らかになった。
そこで今回は、同サービスを実施する「ヤマト運輸株式会社」に、宅急便の歴史について話を聞いてみることに。すると、予想だにしなかった様々な事実が判明したのだ。
■じつは「全く違う名前」になっていた可能性が…
ECサイトにおける「通販の全盛」ともいえる現代に生きる我われからは信じがたいが、ヤマト運輸担当者は「宅急便が発売される以前は、個人のお客さまが物を送るためには国鉄や郵便局に荷物を持ち込む必要があり、荷物がいつ到着するかも分からない時代でした」と、かつての宅配事情について振り返る。
続けて「個人のお客さま向けの『便利なサービスをつくりたい』という思いで、1976年(昭和51年)1月に『電話1本で集荷・1個でも家庭へ集荷・翌日配達・運賃は安くて明瞭・荷造りが簡単』というコンセプトで『宅急便』を発売しました」と、宅急便誕生の経緯について説明してくれたのだ。
なお、サービス開始の前年・75年(昭和50年)9月に小口便のキャンペーンを実施した際に「宅急便」という名称を使用していたが、こちらは宅急便を開発している時点では「仮称」の位置付けだったそう。
ヤマト運輸担当者の口からは「アメリカの小荷物専門会社『ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)』にちなみ、『ヤマト・パーセル・サービス(YPS)』という案と、家に急いで届ける便を示す『宅急便』という案がありました。最終的には併用する形『YPS(ヤマト・パーセル・サービス)の宅急便』としてチラシや車に掲げられスタートました。しかし他社のサービスとの差別化のため、78年(昭和53年)に「宅急便」を商標登録しました」と、驚きの事実が…。
…ということは歴史が一歩間違えば、『魔女の宅急便』タイトルが『魔女のパーセル・サービス』となっていた可能性もあるのだろうか…。
■映画公開時点での「認知度」に驚き
概念としての「宅配便」のことを「宅急便」と呼ぶケースすら珍しくないほど、世間にその名が浸透した同サービス。しかしヤマト運輸では、宣伝活動を「ほとんど行なっていなかった」という。
担当者は「従来、運送会社がラジオやテレビなどのマスメディアを活用し、広告宣伝を行なうケースはほとんどありませんでした」と、当時の情勢を振り返る。
しかしそんな中、76年(昭和51年)に同社初となるテレビCMを放送開始。こちらは「電話ひとつで翌日配達」をキャッチフレーズにアニメーションで構成した内容で、本社に問い合わせの電話が多数寄せられるほど大きな反響があったという。
そこで79年(昭和54年)には、「クロネコヤマトの宅急便」というお馴染みのワンフレーズを用いたCMソングを制作し、テレビやラジオで流されるようになったのだ。
記者は当初『魔女の宅急便』の知名度が、ヤマト運輸の宅急便の知名度を押し上げた…と考えていたのだが、実際はその逆。『魔女の宅急便』が公開された1989年(昭和64年)には既に、宅急便のサービス提供は人口で99.9%、面積比で99.5%をカバーしており、年間じつに約4億個の取り扱いがあったそう。
ヤマト運輸担当者は、知名度向上の背景について「お客さまにとって馴染みのあった米屋、酒屋などに『取扱店』さまとして宅急便の受付をして頂くことで、お客さまが好きなときにご自宅近くの取扱店に荷物を出して頂けるようになり、発送時の利便性が向上しました。当時は取扱店さまが、ヤマト運輸とお客さまを繫ぐ重要な役割を果たしてくださいました」とも強調しており、人と人の繋がりによって育まれてきたサービスであることが、改めて感じられた思いだ。
今回実施したアンケート調査の結果を受け、ヤマト運輸からは「多くの方に『宅急便』をご利用、広くご認識して頂き、大変嬉しく思います。引き続き、多くのお客さまに宅急便をご利用頂くとともに、個人のお客さま・法人のお客さまそれぞれの価値提供に繋がるサービスを提供していきます」と、笑顔のコメントが寄せられている。
約50年に渡り、我われの生活基盤を支え続けている宅急便。その重要性・利便性から今後も、ユーザーにとって「なくてはならない存在」であり続けるだろう。
■執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。ドン・キホーテ、ハードオフに対する造詣が深く、地元・埼玉(浦和)や、蒲田などのローカルネタにも精通。
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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)
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