なぜ畑違いの化学メーカーが… カネカが北海道別海町で有機酪農に挑戦する理由
日本ではきわめて限られる有機酪農。牧草や餌の穀物も有機農法で栽培する。なぜ大手化学メーカーが挑むのか。
■作業を効率化して有機農業の時間づくり
100頭前後の飼育頭数は、北海道では家族経営のやや小さな酪農家くらいの規模というが、有機で飼料を賄うためには、牧草とトウモロコシ(デントコーン)の畑を含めて東京ドーム23個分の広さが必要だそう。
それだけの規模でかつ有機農法の畑と牛たちの管理をわずか3名のスタッフで行う裏には、さまざまな工夫がある。取材陣が驚きを隠せなかったのが、最新鋭の全自動搾乳機。
人が連れてこなくても、乳が張った牛たちが自分たちで列をなしており、4つある乳首の位置をレーザーで把握。乳房の消毒から搾乳までを全て「機械と牛だけ」で行う。
これによって、酪農で毎日最も大変な作業のひとつである搾乳の負担がほぼなくなるのだ。
■初年度は畑も雑草だらけに
スタッフの1人・山本さんは、牧場が稼働を開始した2021年5月から勤務。滋賀県出身で刑務官の仕事などしていたが、動物と関わる仕事に興味があって中標津町に移住。個人農家で酪農を手伝っていたところ、この農場を紹介された。
「他の農家では朝夕の搾乳が主な仕事なのですが、ここだとその負担がない分、さまざまな仕事ができる」と山本さん。
有機栽培のデントコーン畑には農薬はおろか除草剤も使えないため、当初は雑草だらけで収穫もおぼつかなかったそうだが、大学の研究者からアドバイスも受けながら、今はトラクターで除草するコツもわかってきたという。
コーンや牧草を育てる肥料は、牛たちの糞尿を発酵させた堆肥。2週間以上寝かせた堆肥は発酵熱で70℃を超え、掘り返すともうもうと湯気を立てる。匂いは「土の匂い」に変わっている。
■3月から有機ヨーグルトを発売
このように手間がかかる有機酪農だが、農地の広い北海道においてなら、日本でも成功する可能性はあるだろう。有機食品は一般的な商品よりも高く販売することができる。
とくに乳製品は現状ではかなり限られるため競争相手も少なく、酪農経営の安定にもつながる。飼料は自家栽培で輸入も不要なので、為替リスクもない。
「安定して稼げる酪農」であれば、将来的にも地域経済の柱となり、若い人たちも地元に定着しうるかもしれない。
2022年に有機JAS認証を取得した別海ウェルネスファームでは、今年3月から有機ヨーグルトを発売。牧場立ち上げから5年がかりでの商品化となった。次回はその試食レポートを紹介しよう。
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(取材・文/Sirabee 編集部・タカハシマコト)