なぜ畑違いの化学メーカーが… カネカが北海道別海町で有機酪農に挑戦する理由
日本ではきわめて限られる有機酪農。牧草や餌の穀物も有機農法で栽培する。なぜ大手化学メーカーが挑むのか。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初、学校の一斉休校や外食産業の営業自粛により、牛乳の消費量が急減。乳牛は毎日搾乳する必要があるため、大量の生乳が余って社会問題となったのは記憶に新しい。
農水省などが消費拡大への協力を訴えたほか、SNSを中心に牛乳を大量に使用するジョージア料理・シュクメルリや奈良時代のチーズとも言われる「蘇」のレシピなどが拡散した。
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■酪農家は30年で9割減
生き物を相手にした仕事であり、生産量を急に調整することが難しい酪農。さらに近年は、ウクライナ紛争などによる国際的な穀物価格の上昇と円安で輸入穀物を中心とした飼料コストが増大し、国内の酪農家は危機的状況にある。
1981年に10万戸を超えていた酪農家の戸数は、現在では2万戸を下回り、87%減。生乳の生産量も1991年と比較して1割減となった。休みが少なく重労働で、経営も安定しづらいことから、後継者不足の影響も大きい。
そんな中、酪農とは畑違いの化学メーカー大手・カネカが、2018年から興味深い取り組みを行っている。
■難しい「有機酪農」に挑戦
カネカは、2018年、酪農王国・北海道の東部に位置する別海町に、地元の酪農企業と合弁で別海ウェルネスファームを設立。日本ではまだ極めて珍しい有機酪農による有機乳製品の製造・販売を行うためだ。
オーガニック/有機といった言葉は今やかなり身近。専門店のほか、スーパーマーケットでもPOPや売り場が目立つ。
じつは野菜などは有機栽培が比較的広く普及しているが、飼料の多くを輸入に頼る酪農では非常に難しい。私たちが飲んでいる牛乳の自給率はほぼ100%だが、飼料の自給率を考慮した牛乳・乳製品の自給率は約26%(農林水産省/2020年)。
輸入される飼料は、有機栽培どころかその大半が遺伝子組換え作物だ。有機酪農を行うためには、まず、穀物・牧草などの飼料を有機栽培で作るところから始める必要がある
■牛が自由に歩き回る牛舎と放牧地
別海ウェルネスファームでは、搾乳ができる母牛約70頭を含めて120頭ほどの牛を飼育している。
国内の酪農では、狭い牛舎でも効率的な生産が可能な「繋ぎ飼い」が一般的だが、別海ウェルネスファームでは牛たちが自由に歩き回れるフリーストール牛舎を採用。さらに、放牧地との移動もいつでも自由だ。
ストレスが少ないせいか、牛たちはかなりフレンドリー。見慣れない取材陣が集まっても人懐っこく近づいてくる。
インドア派・アウトドア派の牛がいるそうで、外を歩いて地面から牧草を食べたい牛は放牧地へ。刈り取って乳酸発酵させた牧草や穀物を食べたいときは牛舎へ。体にブラシをかけたいときも、牛が自ら行っている