レンジャー訓練中に銃携行で消えた自衛隊員 「行方不明になる自衛官」の心理とその環境
銃携行で突如消えたレンジャー学生 行方不明になる自衛官の心理とその環境。

6月27日、陸上自衛官の男性が小銃を携行したまま行方不明になった。翌日には発見され、報道によれば男性自衛官は疲労が原因で仲間とはぐれたという。
なぜこのような事態が発生するのか、行方不明になる隊員にはどのような共通性があるのか。これらの疑問を解明すべく、筆者が元陸自レンジャー教官としての視点から考察する。
■能力不足による行方不明
自衛官の中には、実情として訓練や任務において必要な能力や技術が不足している隊員がいる。彼らは過酷な状況や困難に直面すると、迷子になったり行方不明になる可能性がある。
方位や現在位置を確認したり、部隊行動に追い付いたりするのには、それなりの訓練が必要だからだ。
能力不足によって行方不明になる自衛官は、有事の際に十分な貢献をすることは困難である。チームの行動を乱すので、むしろ足手まといとなる。
過酷な状況や戦闘で必要な技能や判断力が不足している場合、彼らの行動は部隊や作戦に悪影響を及ぼす可能性がある。
■訓練や仕事からの逃避
自衛官の中には、訓練や任務の過酷さやプレッシャーに耐えられず、逃げ出すことを選ぶ隊員がおり、筆者は実際に何度も目にしてきた。
彼らは一時的に行方不明になる、もしくは官品(国から支給されている装備等)を紛失させ、訓練や仕事を停止させることで自身の負荷を軽減しようとする可能性がある。
事実として起こり得る頻発事件だ。レンジャー訓練では毎回聞く話である。筆者が携わったレンジャー訓練でも数回起こっている。
訓練や仕事から逃げるために行方不明になったり、官品を意図的に紛失させたりする自衛官は、有事の際に信頼性や責任感の面で問題を引き起こす可能性がある。
彼らの逃避行動によって部隊の連携や指揮系統が乱れ、任務の遂行に支障をきたすことも多い。厳しい訓練を団結して乗り越えようとしてる中、脱走兵が発生して訓練が中止となると、もちろん士気が下がる。組織の和を乱す、非常に危険な存在だ。
■死に場所を探しに行くことも
自衛官の中には、個人的な問題(人間関係や金銭的トラブル)や心理的な負担により、自殺を選ぶ隊員もいる。彼らは人気のない場所で自殺することで、人に迷惑をかけず、かつ自身の苦しみから解放されようとする。
また、彼らにそのような選択肢を与えてしまっているのは、劣悪な家庭環境や職場環境、金銭的トラブルが主であり、彼らの行動の原因に部隊が関係していることも少なくはない。
もちろんこれらは筆者が過去に勤務していた時に体験したケースの一部であり、全ての行方不明な自衛官がこれらの要因に該当するわけではない。
しかしながら、行方不明になる自衛官は能力や練度不足のため、有事の際には組織の負担になったりリスクを引き起こしたりする可能性が高い。
これらは稀に起きた事案一つとして処理するのではなく、その根本たる原因を突き止め、解決する必要がある。自衛隊はもちろん組織的な訓練や法規に基づいて活動するため、部隊の一体性や戦闘力を維持することが重要である。
行方不明の自衛官が最小限に抑えられ、迅速に対処できるようにすることが、有事における効果的な対応の一環となるであろう。
■隊員の能力不足の解決を
上記の3つの原因の根本には部隊の現状が鏡のように映っているのではないかと考える。
隊員の能力不足は部隊の訓練練度、訓練からの逃避は上司と部下の信頼関係や服務指導を通じた教育、自殺は職場環境や上司による部下の掌握の結果として表れている。
そのため、事象が起きている部隊は目の前の事象もさることながら、根本的な原因を解決しなければ、隊員の練度、職場環境等は永遠に改善されないであろう。
■執筆者プロフィール
安丸仁史(やすまるひとし):1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。
職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。自称お祭り系インスタグラマー。お祭りとパンクロックをこよなく愛する。
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(取材・文/Sirabee 編集部・安丸仁史)




