ロシア国内でワグネルが反乱 プーチン体制の行く末を舛添要一氏が緊急分析
【舛添要一『国際政治の表と裏』】ロシア国内で準軍事組織・ワグネルによって発生クーデター。今回は緊急寄稿である。
■ロシア軍の立場
ロシア軍にしてみれば、ワグネルが自分たちの作戦に忠実な動きをすれば、補完部隊として役に立つ。しかし、本軍が苦戦しているときに、補完部隊が勝手な行動をし、しかもプリゴジンがSNSで自らの主張を流すのではたまらない。
ウクライナ侵攻は「戦争」ではなく、あくまでも「特別軍事作戦」であり、総動員令もかけられない。しかし、ウクライナ軍の反転攻勢によって本格的な戦争になっている。武器弾薬の補給も、正規軍が優先であり、作戦についても機密保持の要請もある。
これ以上、ワグネルに勝手な真似はさせないということで、懲罰的に攻撃したのだろう。
もちろん、戦闘の実態は見てきたわけではないので、不明である。ロシア軍にとっては、今回の事態を利用して、プーチンがさらなる動員をかけることを狙っているのであろう。
■プーチン排除のクーデターにつながるか
今回の「反乱」は正規軍の反乱ではない。あくまでも勝手に戦場にやって来た民間軍事会社の動きである。
したがって、ただちにクーデターにつながるような話ではない。私が近刊の『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』で解説したように、ソ連・ロシアの指導者は、必要なら盟友でも粛清する。
また、その粛清に手心を加えることによって、盟友を引き留め、寛容なところを国民に見せつける「演技」もする。とくに、プーチンはこの手法に長けている。
ただ、今回の事態をあまり楽観視してもならない。ロシア政府の対テロ委員会は、首都モスクワとモスクワ州、ウクライナと国境を接するボロネジ州に、真の監視強化などを盛り込んだ対テロ作戦体制を敷いた。
旧知のソビャーニン・モスクワ市長は、この作戦に伴い、大規模イベントの中止を決め、市民に冷静な対応を呼びかけた。
今のところは、クーデターやプーチン排除などは起こらないと思うが、プーチンは、今回の事態を利用して、動員体制の強化、ナショナリズムの高揚を図るであろう。
■執筆者プロフィール
Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今回は、ロシア国内でのクーデター発生にともない、緊急寄稿いただきました。
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(取材・文/舛添要一)