問われる日本外交 存在感増す「グローバルサウス」とどう向き合うか

【舛添要一『国際政治の表と裏』】来る広島サミットは、まさに岸田文雄首相にとって腕の見せ所だ。

2023/05/07 05:00

岸田文雄

岸田文雄首相は、4月29日から連休を利用してアフリカ訪問の旅に出た。エジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークを訪ねたが、これら4カ国はアフリカでも重要な国である。

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■岸田首相アフリカ歴訪の狙い

エジプトは、中東・アフリカの大国であり、西アフリカのガーナと東アフリカのケニアは安定した民主主義国である。モザンビークは天然ガスなど天然資源が豊富であり、また北朝鮮とも国交がある。さらに、ガーナとモザンビークは日本と共に国連安全保障理事会の非常任理事国を務めている。

アメリカがウクライナ戦争に集中している間に、ロシアや中国が中東やアフリカで影響力を増しており、岸田首相のアフリカ歴訪は、それを牽制する意味も持った。

世界には196の国があるが、その国々を様々な集団に分類することができる。昨年ロシアがウクライナに侵攻して戦争になっているが、自由な民主主義を標榜する国々と、そうではない権威主義とか専政とか独裁とか称される国々もある。中国、北朝鮮、ロシアなどがそうである。残念なことに、今は権威主義国家が増えており、民主主義が退潮している。

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■G7、G20、BRICS

そのような中で、民主主義で経済的に豊かな国々、つまりアメリカ、カナダ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの7カ国とEUの代表が集う先進国首脳会議(サミット、G7)が、5月19〜21日に広島で開かれる。岸田首相がアフリカを訪問したのは、その準備の一環でもある。

広島サミットには、G20議長国のインドの他に、インドネシア、オーストラリア、韓国、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムも招かれている。

20カ国から成るG20は1999年に始まったが、G7にロシア、そして当時新興国と呼ばれたアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、サウジアラビア、南アフリカ、トルコを加えた集団である。これら12カ国が、その後目覚ましい経済発展を遂げたことは周知の通りである。

その国々の内、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国を、国の頭文字をとってBRICSと呼ぶが、これらの国々は、2000年以降に大きな経済発展を遂げたことが特色である。

ロシアのウクライナ侵攻に対して、BRICSは制裁を加えたり、厳しく非難したりしていない。中国はロシアと友好関係にあり、南アフリカはロシアと合同軍事演習を行い、インドはロシアから武器を購入するなどしている。ブラジルは、昨年の大統領選で左派のルラ政権が誕生しており、中国と接近している。


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■グローバルサウス

かつては、経済発展の度合いを尺度に、先進国と発展途上国というグループ分けをしていたこともあった。「南北問題」と称して、豊かな「北」の国々と、貧しい「南」の国々の経済格差を論じていた。先進国が北半球に、発展途上国が南半球に多いことから、そういう呼び方だったのである。

今は、この「南」の発展途上国のことを「グローバルサウス」と呼ぶ。明確な定義があるわけでも、国のリストがあるわけでもなく、様々なニュアンスをつけて用いられている。

グローバルサウスが流行語のようになったのは、ロシアのウクライナ侵攻以降である。G7はロシアの侵略行為を厳しく批判し、自由な民主主義という価値を重視する。これに対して、ロシア、中国、北朝鮮などの権威主義国家は、アメリカの1極支配を非難する。

この両者の間で曖昧な態度を取っている発展途上国や新興国をグローバルサウスと呼ぶようになった。それは、ロシアのウクライナ侵略は批判しても、ロシアに厳しい制裁を科したりすることに反対する国々が「南」には多いからである。アジア、アフリカ、インド、中東、中南米などである。その典型的な国がインドである。


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■問われる日本外交

第二次大戦後の冷戦時代は、アメリカとソ連、東西両陣営の対立図式であり、国際秩序に関しては簡単な整理が可能であった。ところが、1989年にベルリンの壁が崩壊し、1991年にはソ連邦が解体した。それ以降、ロシアは自由化し、G7に加わってG8となった時代もあったのである。しかし、2014年のクリミア併合でロシアは排除され、またG7に戻ってしまった。

昨年2月のロシアのウクライナ侵略以降は、「民主主義陣営vs権威主義陣営」という対立図式が鮮明になったが、その中で、どちらの陣営にも属さないグルーバルサウスの存在感が増しているのである。

日本はG7の一員であるが、同時にアジアの国であり、欧米とは異なる外交姿勢を示してもよい。自由な民主主義という価値を堅持することは当然であるが、経済、外交、防衛などの諸政策は国によって多様な選択肢があることもまた重視すべきである。その背景には多様な文明がある。

とりわけ、グローバルサウスに対する援助については、欧米とは異なる日本文化を背景にしたアプローチがあってよい。広島サミットは、まさに岸田首相の腕の見せ所なのである。


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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「グローバルサウス」をテーマにお届けしました。

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(文・舛添要一

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