犬山紙子さんインタビュー 「負の連鎖」を「寄付の連鎖」へ

 子供の貧困は、決して自己責任ではない。

2018 年、児童虐待防止のために子供を支援するボランティアチーム「こどものいのちはこどものもの」を、タレントの眞鍋かをりさん、福田萌さん、ファンタジスタさくらださん、ミュージシャンの坂本美雨さん、アーティストの草野絵美さんと共に発足させた、犬山紙子さん。

その活動を通じて、一人でも多くの人に「子供の貧困」とは何かを、そしてその現状を知ってもらうことが大切だと痛感したという。子供の未来を守るために、いま、大人ができることとは-?

「困った時はSOSを出せる世の中であってほしい」と犬山さん。知ってもらうこと、気軽に寄付をできる仕組み、企業のポテンシャルを活用することなどの具体策を挙げてくれた
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■貧困への偏見や自己責任論を断つためには「まずは知ってもらうこと」

-子供の貧困に関して真っ先に問題に挙がるのが、貧困とはどういった状況をいうのか、そして、貧困な状態にある子供や保護者をどうやって見つけるのか、ということの難しさです。

 

犬山:貧困が隠れがちだというのは、支援に携わるいろいろなNPO法人の方々のお話をうかがっていても本当に伝わってきます。逆に一般の方からは、「この日本で本当に貧困なんてあるの?」っていう言葉すら聞こえてくることもあります。

例えば、マスメディアで貧困家庭などの報道がなされると、「これは全然、貧困じゃない。家にたくさんモノがある。子供が太っているじゃないか」と、まだ理解が足りてないために、その家庭の方々に向かってバッシングまで起きてしまう。こうした状況には、すごく心を痛めています。

私も、どうして子供の貧困状態が見えにくいものとなっているのかをいろいろな方に話を聞きながら考えていると、やはりそこには周囲の偏見があるんですよね。モノの所有や体形などで、貧困な状態であるか無いかを決めつけているのだと思います。

-偏見や差別といったネガティブな感情は確かに存在しますよね。

 

犬山:厚生労働省は 2021 年、生活保護について「申請は国民の権利です」と力強く伝えてはいますが、残念ながら、まだまだ生活保護(やその受給者)へのバッシングはあります。貧困状態となる理由には、本人の努力だけでは回避できない事も多い。

にもかかわらず、「その人たちが怠けているから、努力不足だから、貧困なのだ」という偏見が、自己責任論が社会全体に根強くある理由なのだと思います。貧困に直面している子供は、偏見の目にさらされるとしんどい思いをしますし、例えば、「昼ごはんは給食を食べるけれど、夜ごはんはほぼ毎日菓子パンだけ」といった家庭の状況自体を隠そうとしますよね。

そうすると、実際に「こんな支援制度がありますよ。行政でこんなサービスを受けられますよ」という情報があっても、それを申請するのにためらってしまうという悪循環を生んでしまいがちです。そもそも、日々の生活に疲れ果てて、支援制度を調べたり申請したりしようとする気力も体力も失ってしまうこともあります。

本人が SOS を求める前に、多少おせっかいだとしても、誰かが手を差し伸べられる環境作りが必要だなと感じています。

 

-そういった偏見や自己責任論を根絶させるためには、どんな働きかけがあればいいと感じていらっしゃいますか?

 

犬山:現状を知ってもらうことが本当に大切だと思います。知らないから叩いてしまうのだと思います。

以前、灘中学校(神戸市東灘区)の社会科で「ホームレスは自己責任だと思いますか?」という授業があったんです。(※1)授業の冒頭では多くの生徒が「自己責任だと思う」という意見だったんですが、授業の中で社会的背景やどうしてホームレスになってしまったかという説明を受けた後に同じ質問をすると、「自己責任ではないよね」という意見が多数に変わっていったんです。

私自身も自分の活動の中で、今も知らないことばかりですけれど、いろいろなことを知る中でやっと(貧困に対する)リアリティが出てきました。また、他者に自己責任論を押し付けていると、自分が追い詰められた時に、「私のこの状況も自己責任なのだから」と、SOS を出せない人になってしまい、より孤立してしまう。それを防ぐ意味でも、まずはやはり知ることで自己責任論をなくしていくことが必要だと思います。

子供の貧困? この日本で? ~「子供の未来応援国民運動」パンフレットより

 

■日本で寄付文化を定着させ、寄付で物語を共有する世の中へ

-「子供の未来応援国民運動」では、「子供の未来応援基金」として企業や個人から広く寄付を募っていますが、日本の社会ではまだまだ寄付をすることに関心が低いように感じます。

 

犬山:私も「こどものいのちはこどものもの」をはじめた時に「日本に寄付文化を定着させる一助になりたい」という大きな願いがありました。寄付をした時には幸福な気持ちになりますし、自己効力感を得られることがあったりもします。

「子供の未来応援基金」はスーパーマーケット等に設置された募金箱などからも寄付ができる

 

-最近では、犬山さんはロシアのウクライナ侵攻に関連して、ウクライナに寄付をされていますね。

 

犬山:あくまで私の場合ではありますが、寄付は「させていただく」という思いもけっこう強いんです。ウクライナに対して何もできない自分に対して、「何か少しでもした」という事実が欲しい気持ちもあり、救援活動に当てられる UNHCR に微々たる額ですが寄付をしました。

同様に、「こどものいのちはこどものもの」でも、子供の虐待をなくしたいと思う人たちの声がすごく多くて。でも、「自分ひとりで変えられるものではない」とか「自分は何をしたらいいか分からない」という人も同じくらいあったんです。もともと私もその一人でした。

そういう時に寄付という手法があって、私たちタレントがそれをシェアすることによって一般の多くの人に届く。貧困に陥っている子供や、それをサポートする団体がどういう事情で困っているのか。それが伝わりさえすれば寄付をしていただける人がいるんだということは実感しています。

 

-同時に犬山さんは匿名の寄付より、実名であったり、名乗った上での寄付を優先されています。

 

犬山 :「どうせ偽善とか売名とか言われちゃうんだろうな」と覚悟していたのですが、Twitter で寄付の報告をすると、私のところに届く言葉は温かい言葉ばかりで、ひどい言葉は飛んできません。むしろ「私も寄付しました」と寄付が連鎖していることも多く、世の中は変わっているということをここ4年くらいで痛感しています。

 

-個人での寄付が増えてきた一方で、「寄付をしたいけれど少額だから恥ずかしい」とか、「少額でも効果はあるのか疑問」とか、額の大小を気にする人も一定数いると言われています。

 

犬山:額が少なくても大きな力になるんです。例えば、クラウドファンディングという形だと、人数の可視化という大きな力を持ちます。支援を受ける側から見ると、「こんなにたくさんの人たちが自分のことを考えてくれている」と感じることができる。

支援する側も、そこに応援コメントを書くと、それが子供にしっかり届く。社会や大人から傷つけられたり、偏見の中でつらい思いをしている子供たちに対して、「あなたたちの力になりたいと思っている大人はこれだけ沢山いるよ」と伝えることができる。人数にはそんな力があると思います。

そういう意味でも、「子供の未来応援国民運動」の寄付メニューにポイントプログラムを活用したものがあるのは、手軽に寄付に参加できる素晴らしい取組みですよね。

 

-NTTドコモやセブン&アイ・ホールディングスなどが参加していて、端数など、小さなポイントからでも寄付できるプログラムになっています。

 

犬山:友人にも楽天ポイントを寄付している人が何人かいます。最近増えてきた寄付プログラムに、寄付型のふるさと納税などもあります。一回寄付すると、他の寄付プログラムにも手を伸ばしやすくなるんですよね。

寄付することによって違うプロジェクトにも目がいくし、寄付した後にその団体さんから、例えば「新しい校舎が建ちました!」といったメールが届くことで、そういう報告を一緒に追いかけて物語を共有していけるので、多くの方に参加してほしいです。

 

■企業の参画でイメージアップと、スティグマからの脱却を

-「子供の未来応援国民運動」では企業に対しての参加や寄付をお願いしています。犬山さんは「こどものいのちはこどものもの」でも、いくつもの企業を取材して意見交換をされていますが、子供の貧困に対して、企業が持つポテンシャルを感じたことはありますか?

 

犬山:めちゃくちゃあります。例えば、とあるソフトウェア企業にお邪魔した時に説明していただいたサービスは、元々はデータベースを作成、共有する業務アプリ作成システムなのですが、それを社会全体で子供を守るために使えないかと考えた時に、保護者とお医者さんと学校など、縦割りでなく横で情報を共有しやすいのではと思いました。

もちろんプライバシーにはしっかり配慮しながらですが、みんなで見守るという意味では、そのために有効なノウハウを、企業では既に持っていたりするんですよね。

 

-企業が持つポテンシャルをうまく引き出すことが重要になってくるということですね?

 

犬山:そうですね。その上で行政と企業のタッグもすごく大切だなと感じています。渋谷の区役所通りに「co しぶや」というネウボラ(※2)があるのですが、あそこも「まちの研究所」さんや「まちの保育園・こども園」さん、「良品計画」さんなどの企業が参画しているんですよね。

あの建物に行けば、子供のことで解決できることが沢山ありますし、初めて行っても、保育士さんだったり資格を持ったスタッフさんが、必ず声をかけてくれます。孤立を防いでくれますから相談しやすいですし、悩みを抱えた人が SOS を出す窓口としても機能しているなと感じます。

そして、すごくお洒落な施設であることは、利用者に対するスティグマ(偏見)からの脱却という意味でも大きいです。こうした取り組みに企業が参加することは、子供を持つ親からの共感が強くなるので、その企業のイメージも良くなるのではないでしょうか。

8階建てのビルには中央保健相談所や教育センター、子ども発達相談センターなどの機関が入る

 

-そのように団体や企業に取材をしている中で、強く感じたことがあれば教えてください。

 

犬山:どの取材でもすごく感じたのは、「子供を守りたい」と思う気持ちに、保守とかリベラルといった思想は関係ないんですよね。大多数の人が子供をどうにかしたいという気持ちを抱いています。子供を持たない方も多く寄付してくれますし、みんなで子供を守っていこうと、これだけ国民が思っているわけですから、そこから企業が汲み取るべきところは多いと思います。

 

-今日はありがとうございました。最後に今後の活動について聞かせてください。

 

犬山:今は様々な活動をしている多くの方にお会いして、対談をして記事にして知ってもらうことに重きを置いています。特にこぼれ落ちてしまう貧困の状態にある子供たちの声、それを支える団体さんの声。マスからこぼれ落ちる声をどうにかたくさんの人に知ってもらう、そのお手伝いをしていきたいですね。

私は、タレントという立場で、決して専門家ではありませんので、あくまで一般の目線を持ってみなさんと同じ立場でできることを、できれば死ぬまで長く続けたいと思っています。

SDGsという言葉が認知された昨今、企業が貧困に向かう姿勢や貢献度などが犬山さんの「自分なりの企業への判断材料になっている」とも

 

【犬山紙子プロフィール】

犬山紙子(いぬやま・かみこ)

1981年大阪府出身。大学卒業後、仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退
職。

20代を難病の母親の介護をしながら過ごす。2011年、女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書いたブログ本を出版しデビュー。

高い人間観察力と独自のユーモアを活かして、雑誌、テレビ、ラジオなどでコラムニスト、コメンテーターとして幅広く活動中。

2014年に結婚、2017年に出産を経験し、2018年には児童虐待をなくすチーム「こどものいのちはこどものもの」を結成。社会的養護を必要とする子供たちにクラウドファンディングで支援を届けるプログラム「こどもギフト」も立ち上げるなど、多方面で子供の貧困解消に取り組んでいる。

近著に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社新書)がある。

【脚注】

※1 2019年5月に灘中学校(神戸市東灘区)の3年生に対して行われた、ビックイシューによる出張講義。「ホームレス状態になるのは自己責任と思うか」という生徒への問いに対し、授業前は「とてもそう思う」「まあそう思う」との回答が6割を超えたのに対し、授業後は「あまり思わない」「全然思わない」が自己責任論を逆転した。

<参考:THE BIG ISSUE online> https://bigissue-online.jp/archives/1074408606.html

※2 ネウボラとは、「アドバイスの場所」を意味するフィンランド語。「co しぶや」(渋谷区神南ネウボラ子育て支援センター)は、東京都渋谷区が2021年8月に開設した施設。子育て相談だけでなく、親子同士の交流の場や、地域や区の子育て支援情報などを提供するほか、こどもとアーティスト・こどもとシェフ・こどもと企業など、渋谷の多様なリソースを生かし、子育て家庭を中心に、誰もが楽しめるイベントや企画を実施している。

https://shibuya-city-neuvola.tokyo/facility/coshibuya/

~本記事は、内閣府等が推進する「子供の未来応援国民運動」を企業や個人の皆様に広く周知し、「子供の未来応援基金」へのご理解ならびにご賛同をいただくために作成されました。同基金は、企業や個人の皆様から広く寄付を募る活動です。寄せられた寄付金は、公募・審査・選定 の上、支援団体の運営資金として提供され、学習支援を行う団体や子供食堂、フードバンクなど、全国の支援団体の様々な活動に役立てられます。皆様からのご支援をお待ちしております。詳しくは、下記サイトをご覧ください~

子供の未来応援国民運動

https://kodomohinkon.go.jp/

 

(取材・文/竹田聡一郎・編集/Sirabee編集部