コロナ禍で子供を守る食のセーフティネット、フードバンクってなに?
相対的貧困に陥っている世帯で暮らす17歳以下の割合は13.5%。7人に1人が該当するとも言われており、これはOECD加盟国中でも高い数字だ 。
2022/02/14 11:30
「1日の食事は給食だけ」、「夜にお腹が減ると公園で水を飲む」戦後の伝話、あるいは途上国のニュースではない。現代の日本の話だ。
「マドレーヌを一度、食べたことがあるんだ」と誇らしげに胸を張る女児がいれば、「バーベキューの肉を食べてみたい」と憧れを語る男児もいる。
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■OECDの中でも相対的貧困率が高いニッポン
手取り収入を指す「可処分所得」が、国民の中央値の半分に満たない「相対的貧困」に陥っている世帯で暮らす17歳以下の子供の割合は13.5%(※1)。実に7人に1人が該当するとも言われており、OECD加盟国の中でも貧困率が高い(※2)。
「貧困は衣食住など様々な面に影響しますが、やはり食の面に現れやすい。我々は主に食の支援をしています」そう語るのは「特定非営利活動法人 フードバンク福岡」(福岡市城南区)の岩﨑幹明事務局長。
フードバンク福岡は2016年の設立以来、地元企業や団体を中心にサポートを受け、現在では約140社から食品提供を受け、170近い受取団体へ年間160トン超の食品を提供している。西日本でも最大級のフードバンクだ。
■西日本のメガフードバンク、フードバンク福岡
「今でこそフードバンクという言葉が少しずつ浸透してきたけれど、当初はどんな活動をしているのかを知ってもらうところからはじめないといけなかった」 岩﨑さんはそう苦笑いで振り返る。
フードバンク(Food bank)とは企業や農家などの余剰食品の寄贈を受け、必要としている人のもとへ届ける活動やそうした活動を行う団体をいう。世界最初のフードバンクは1967年に米国アリゾナ州フェニックス市で生まれたとされ、その後世界各地に広まっていった。
日本国内でも2000年以降に徐々に設立されていったが、まだまだ認知されていない活動ではあるため、当時から各団体はまずは食品の確保に苦慮してきた。
ただ、フードバンク福岡に関しては、設立当初から活動内容の周知とは別に寄付される食品の種類と量は右肩上がりに増えていった。理由のひとつに、福岡県内に15店舗を展開するエフコープ生活協同組合の出身の岩﨑事務局長の存在がある。
「60歳で定年となったところで、手伝ってほしいと言われたのがフードバンク福岡でした。私自身も勉強しながらでしたが、仕事をしていた地元企業に『今こういう仕事を手伝っているんだ』って声をかけると、みなさん安心して快く食品提供を申し出てくれました」
フードバンク福岡のホームページには、サポーター企業が紹介されているが、岩﨑さんの“古巣”であるエフコープ(糟屋郡篠栗町)をはじめ、あごだし鍋やもつ鍋スープなどのヒット商品を持つ株式会社久原醤油(糟屋郡久山町)、九州の大手食肉加工製造販売の株式会社九食(福岡市南区)、ブランド鶏卵「つまんでご卵」の販売とその加工食品の製造販売をする有限会社緑の農園(糸島市)など、そのほとんどが地域に根ざした企業だ。九州人の人情が垣間、見えてくる。
さらに、衛生管理や保存、輸送の問題から生鮮食品の扱いがないフードバンクが多い中、フードバンク福岡では野菜や果物といった食品の寄付、配布を実現している。
「『スイカを初めて食べた』と喜んでくれる子がいたのですが、そういう声を聞くと嬉しいですね。野菜や果物はスタッフが毎週木曜日に筑紫野市にある福岡県農業大学校(筑紫野市)や福岡県農林業総合試験場(同)に足を運び、授業や研究のために生産された多種の農産物を譲り受けます。それらは老人関連施設や障害者施設、自立支援施設などの3食を自炊し、生鮮食品を必要としている団体も多いのでそこに配分されますね。シーズンにもよりますが、多い時は100キロ近くいただくこともあります。子供食堂の主催者などがうまく使ってくれるケースも多いですね」
月曜、木曜、金曜の営業時間(10時から16時)の間に、受取団体の代表がフードバンク福岡にピックアップに来るシステムになっているが、岩﨑さんの説明どおり、その時間内にシングルペアレンツ支援団体、子供食堂の担当者などがそれぞれ慣れた手つきで野菜や果物を手に取っていた。
そのうちのひとりがこひつじの園ランチカフェ実行委員代表の宮崎久仁子さんだ。こひつじの園ランチカフェは、毎月第三土曜日に福岡市南区の平尾バプテスト教会で開催されるチャリティーイベントだ。5歳以下は無料、6歳から18歳までは100円、19歳以上は200円の参加費を払えば誰でも参加できる。
宮崎さんがフードバンク福岡で選んだ野菜、白菜は具沢山のスープに、里芋は煮転がしに、人参はラペ(サラダ)に、茄子は揚げ浸しに。それぞれ料理自慢のボランティアの主婦の手料理となった。
この日はスペシャルライブとプレゼントもあるクリスマスパーティーで、参加した市内の女子小学生は「楽しかったし美味しかった。チョコレートももらった。クリスマスやけんね」と興奮気味に教えてくれた。
「共働きやひとり親の家庭も多いし、複雑な事情を抱えた子もいます。そういう場合、どうしても孤食になってしまう。みんなでご飯を作って食べて『美味しいね』と言い合える。それだけでも、きっと違うと思うんです。うちは子供食堂というより、どなたでもどうぞ、という感じでやっているので、来るほうも受け入れるほうも『バイバイ、またね』って言えることで地域の安心になってくれたら」
宮崎さんはそう願いを口にした。「コロナが落ち着いてくれたら、今年は夏祭りができるんだけどね」
■食の支援の、その先へ。ツールとしてのフードバンクの未来
フードバンク岩手(岩手県盛岡市)は2014年に活動を開始し、翌15年に法人格を取得したNPO法人だ。岩手県内の約7割の地域をカバーし、2021年には年間で2700を超える世帯に食でサポートを続けている。事務局長を務める阿部知幸さんは「伴走」をキーワードに挙げた。
「基本的には企業や団体にいただいたレトルト食品やカップラーメン、菓子などを詰め合わせにして送っています。でも、例えば4歳と7歳の兄弟が留守番をしているひとり親の家庭があるとして、その家に電子レンジはあるのか、その兄弟は包丁や火は使えるのか、という懸念がある。できればそこまで確認して、それに則した支援をしたい」
そのためにも「フードバンクにはツールとしての価値を加えていって、そのツールを使って現場や世帯との関係づくりを試みている」と阿部さんは続ける。
もちろん、その過程でプライバシーは守られなければいけない。自治体の担当者や社会福祉協議会、民生委員・児童委員らとの協働連携、課題共有してピンポイントで各世帯に必要なものを届ける。
プライバシーの観点からも宅配業者から支援世帯にダイレクトに届けずに、地域の社会福祉協議会、あるいは役場などの公的機関あてに送付し、前述の自治体の担当者や社会福祉協議会等の支援機関の職員に運んでもらう。手間はかかるが、そのぶん該当世帯の困窮具合も把握できるうえに、訪問者と「しっかり関係づくりをすることに繋がる」と阿部さんはメリットを指摘した。
そして初回の支援物資には必ずフードバンクのチラシとアンケートを送り、どんなものが必要かリサーチは欠かさない。
「例えば、『みかんなどの果物があるとありがたい』と書いてあれば、倉庫に在庫があればもちろん送ってあげます。ない場合は買います。そして『ちょうどスーパーからみかんをいただいた』と希望者の心理的負担にならないようにつけくわえます。そうすれば次回もまたリクエストしやすいですからね。支援を希望する方が依頼書を詳しく書けば書くほど楽になる。そんな活動を目指しています」
時には方便も使い、ツールを生み、一方通行ではなく関係を育てる。それこそが阿部さんの掲げる地域と各世帯に寄り添った「伴走」だ。2021年だけでもフードバンク活動から派生した訪問サポート件数が1000世帯を超えた。
「大切なのは誰かに話をすること。そして困っている時に手や声を挙げれば助けてくれる人がいると知ることですから」
■困窮と支援のマッチング、これからの課題
一方で阿部さんは「これ、東北のフードバンクあるあるなんですけど」と苦笑いで課題を挙げてくれた。
「東北6県はどこも米どころなので、本当にたくさんのお米をいただくんです。2021年だけでも11.5トンの寄付をいただきました。そのぶん、一方でおかず類は東北のフードバンクはどこも不足傾向です。おかずを扱う食品加工会社さんは流通の関係上、どうしても関東や大都市に大きな倉庫を有しているケースが多く、東北ではそういった企業からの食品提供は少ない傾向にあります」
その過不足を調整する団体が、全国フードバンク推進協議会(東京都小金井市)だ。全国のフードバンクの活動を推進しながら、主に地域単位で活動するフードバンク同士を繋ぐ、あるいは企業とフードバンクのマッチングの役割を果たす。
例えば前述のように、東北から「何かおかずがないか」と要請を受けると、協議会に加盟しているフードバンクに連絡し、おかずになりそうな食品の在庫に余裕がある団体を紹介する。といった具合に団体同士のコネクターとなる。併せて、主に首都圏の企業からの寄付の受け皿にもなる。
例えばある企業が食品の寄付を申し出てくれたが、量が多過ぎてひとつのフードバンクだけでは食品を支援機関や困窮者へ適切にお渡しする事ができないという場合に、複数のフードバンクの情報の集約やニーズ調整を行うのも同協議会の役割だ。
「食品関連会社はもちろん、商社、服飾、通信、流通などなど、多種の企業さまから『うちも何かサポートできないか』とご提案を受けることがあります。世帯によって生活に必要なものが異なりますので、フードバンクとはいえ、例えば文具や石鹸などの日用品を扱うこともあります。基本的にはどんな企業さまも団体さまも、まずはご相談いただければありがたいです」
そう笑顔を見せるのは米山広明代表理事だ。2022年1月末現在、全国フードバンク推進協議会に加盟している53の団体をサポートするほか、フードバンクの新規立ち上げをアシストするなど、その活動は多岐に渡る。
「日本でもだいぶフードバンクは浸透してきましたが、フードドライブやフードパントリーと混合して認識されていることも多い。広報活動も重要になってくると思います」(米山氏)
フードドライブ(Drive=寄付)とは、主に家庭で余っている食べ物を持ち寄りフードバンクや必要としている団体へ個人などが寄付すること。フードパントリー(Pantry=貯蔵庫)とは、生活困窮者に食品を無料で配布する支援活動だ。
特に昨今の新型コロナウイルスの影響で、食事する場面や密を避けるために、子供たちを食事で支える「子供食堂」の活動を自粛する例は少なくない。そのなかでフードバンクは大きな存在となっている。単純に空腹を満たすだけではなく、浮いた食費を衣服や学費などに回せるのは、コロナ禍にあっても大きなメリットだ。
支援の輪をより強く大きく。これはフードバンクだけではなく、子供の貧困を解消すべく働きかけるすべての人の願いだ。そのためには「やっぱり寄付が必要」と、福岡の岩﨑さん、岩手の阿部さんは場所は違えど口を揃える。
「先日、『デコレーションケーキを見たことあるんだ』と自慢げに教えてくれた男の子がいたのですが、そういう話を聞くと胸が痛みます。できるだけのことはしてあげたいのですが、食品の配送や仕分けなど、ボランティアの熱意と献身に甘えているのが現状。支援の件数や量が大きくなればなるほど人件費はどうしてもかかってしまう。貧困が連鎖しないように次世代ではしっかりと、フードバンクという活動が職業になるようなシステムを若い人に作ってもらいたい」(フードバンク福岡・岩﨑さん)
「もっと訪問して支援する件数を増やしたい。理想は困り切る前に支援できることです。食はその最初の切り口でいいと思っています。きっと潜伏している貧困はまだまだあります。掘り起こすアウトリーチ的な働きかけ、そこには貧困をケアする人材を送りたいので、やはり人件費が必要になってきますね」(フードバンク岩手・阿部さん)
後継者問題、システムの構築、潜在的貧困の発見と解消etc……。どれも一朝一夕で解決できはしないが、もはや先送りにしていい課題でもない。
現在、日本には200を超えるフードバンク、食の支援団体がある。本稿で紹介した福岡や岩手だけではなくとも、そこにヒントが転がっているはずだ。まずは国民が意識、興味を向けることがはじめの、しかし大きな一歩なのではないだろうか。
※1.厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/index.html
※2.OECD Income Distribution Database(IDD)
https://www.oecd.org/social/income-distribution-database.htm
フードバンク福岡
フードバンク岩手
全国フードバンク推進協議会
https://www.fb-kyougikai.net/foodbank
~本記事に登場するこれらの支援団体は、子供の未来応援国民運動で取り組む「子供の未来応援基金」の支援実績のある団体です。同基金は、皆様からの寄付金により、全国の支援団体の活動を応援する取組みです。詳しくは、下記の国民運動のサイトをご覧ください~
子供の未来応援国民運動
(取材・文/竹田聡一郎・編集/Sirabee編集部)