宇宙移住計画の落とし穴を専門家が指摘 「人間の本能的欲求が厄介なことに」
食欲・性欲・睡眠といった人間の本能的欲求。そのうち最も問題になると指摘されたのは…。
一般人も大金を支払い、訓練を突破すれば宇宙旅行に出かけられるようになった。
観光産業が国際宇宙ステーションへの旅に乗り出すなど、かつてないほど身近に感じられるようになった宇宙だが、このほどある科学者が「楽しめるのは旅まで。本格的な移住となると、予想だにしなかった事態が起きる可能性があります」と発言した。
イギリスのメディア『Metro』に示した見解が、衝撃的すぎると話題を呼んでいる。
■まずは月、そして火星に
米航空宇宙局(NASA)は2024年に、月軌道上に宇宙ステーションを作り、月面開発を進めるとしている。その後は一般人も気軽に月へ行けるようになり、さらに地球からの距離が近い火星への人類移住計画も、一気に進展すると期待されている。
だが火星の最低気温はマイナス100℃以下で、大気は二酸化炭素が多く、気圧は地球の1%以下。
入植の前に、まずはドライアイスや氷を溶かす温暖化の作業が必要だが、機材、物資、各種のミッションを行う人間を送り込むにも、1度の輸送量には限界がある。かつ地球から火星までは、片道なんと半年近くもかかるそうだ。
■注目される土星の衛星タイタン
火星ばかりか、土星最大の衛星である第6衛星の「タイタン」にも大きな注目が集まっている。
欧州宇宙機関(ESA)の小型探査機ホイヘンス、NASAの土星探査機カッシーニの探査によれば、タイタンは窒素の分厚い大気で覆われ気温は氷点下170℃。液体炭化水素が湖や海を形成し、山も風雨もあるため、発電が可能になるようだ。
スコットランドのエディンバラ大学で宇宙生物学を教えるかたわら、そのカッシーニから送られるデータを研究するチャールズ・コッケル博士が、このほど『Metro』にタイタン入植計画の問題点について言及した。
■人間の本能的欲求のうち…
まずは「タイタンは地球から極めて遠く、トラブルが起きたとき物資をすぐに送り届けることが難しい」と話したコッケル博士。続いては、食欲・性欲・睡眠といった人間の本能的欲求のうち、食欲が大きな問題になると指摘した。
模擬実験を経て、理論上は宇宙でも植物や動物を育てられると予想されているが、仮に失敗すれば食糧事情は悪化し、味気ない宇宙食や缶詰食に食指が動かなくなれば、人は病気になる。
肉食も含めバリエーション豊かな食事を楽しんできた人類だけに、博士は「そのストレスは人間関係を崩壊させる。死んだ人の肉を食べたい、誰かを殺して肉を食べたいなどと思う人が現れるだろう」と話している。
■農業の成功が何より重要
アメリカ・オレゴン州のポートランド州立大学で人類学を教えるキャメロン・スミス博士は、火星と木星の間の小惑星帯(メインベルト)に存在し、地表の数ヶ所から水蒸気が放たれている準惑星の「ケレス(セレスとも)」に注目している1人だ。
「宇宙への移住は、何より農業を成功させることが重要。食糧の供給も貯蔵もたっぷりでなければ人々は不安に陥り、統率が取れなくなる」と指摘するスミス博士。彼も宇宙で人類が共食いする危険については、同意見だという。
・合わせて読みたい→冷蔵庫サイズの小惑星が地球すれすれを通過 映画のような衝突回避は可能か
(文/Sirabee 編集部・浅野 ナオミ)