「息子を難病から救いたい」 独学で自ら研究室と薬を開発した父親に称賛の声
企業の心をも動かした愛情深い父親の努力。指定難病の治療薬が完成することを世界中が祈っている。
息子の難病を治すべく、1人の父親が人生の全てを賭けて立ち上がった。台湾の『Taipei Times』やフランスの『France24』が驚くような快挙の話題を報じ、称賛の声が相次いでいる。
■10万人に1人の難病
中国の昆明市に住むシュイ・ウェイさん(30)には、2歳になるハオヤンくんという息子がいる。だがハオヤンくんは、幼い頃から10万人に1人という指定難病の「メンケス症候群」に苦しんでいた。
患者の数がきわめて少ないこともあって、利益にならないと製薬会社も薬の開発を進めず、いまだ治療法は確立されていないという。
■メンケス症候群とは
健常者は食事で摂取した銅が十二指腸や小腸上部で吸収され、肝に運ばれ、そこで銅結合蛋白質となって血液中に流れていく。
ところが、メンケス症候群では、腸管で銅の輸送障害が起き、腸粘膜に蓄積するばかりで体内に流れていかないため、重度の中枢神経障害、血管異常、膀胱憩室、骨粗鬆症などが生じてくる。
ハオヤンくんはすでに動くことも話すこともできず、医師からは「残念ですが長くは持たないでしょう」と告げられていた。
■仕事を辞め独学で薬を
「息子は死んでしまう。何とかしなければ」と焦ったウェイさんは、仕事を辞めて研究室を作り、自ら薬を開発しようと決意。ハオヤンくんが息をしている限り、最善を尽くしたい、できることは何でも試したいと思ったという。
医学や製薬の経験どころか知識すらなかったウェイさんだが、彼の父親は化学者だった。これが唯一の救い、望みだった。
その研究室の一部を借り、インターネットでメンケス症候群や薬の開発に関する大量の研究資料や論文を読み、独学で知識を蓄え、必要な備品を調達し、ここからウェイさんの新薬開発が始まった。
■半年後ついに薬が完成
ウェイさんは当時を振り返り、「友人や家族からは“そんなことは無理だ”と反対されました。でも色々と考えるより行動が先です。ハオヤンは話すことも動くこともできませんが、大切な命なのですから」と語っている。
研究室を構えてから6カ月後、ついにウェイさんは塩化銅(II)二水和物を、交感神経を刺激するヒスタミンの原料であるヒスチジン、水酸化ナトリウムなどと混ぜ合わせ、ハオヤンくんの脳と神経系の刺激と発達に重要な「ヒスチジン銅」を開発した。
まず初めにウサギに、続いて自らの身体にヒスチジン銅の注射をしてみたウェイさん。異常は見られなかったため、ハオヤンくんにも投薬注射を開始してみた。
■血液検査が正常に
2週間後、ハオヤンくんに血液検査をしてみると、なんと銅の数値が正常の範囲に入った。「これで病状の悪化を遅くすることができる」と手ごたえを感じたという。
そんなウェイさんの努力を、国際的なバイオテクノロジーラボである『VectorBuilder』が高く評価し、量産のための開発に乗り出した。
現在、ヒスチジン銅の皮下注射は、現在メンケス症候群の唯一の治療法として行われるようになっており、神経症状が出現する前の新生児期から治療を開始することで、一定の効果が得られることが確認されているという。
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(文/Sirabee 編集部・桜田 ルイ)