疑問だらけの米国五輪選手団来日 渡航禁止令の弱体化や旅行保険への影響も懸念
欧米や南アジアに比べ、新型コロナウイルスの死者は1万2,000人ほどの日本。だが数だけで判断するのは危険だ。
「五輪開催国でありながら遅すぎる」と批判を浴びている日本のワクチン接種。重い腰が上がったと思ったら、変異株の流行が目立ってきた…そんな日本の状況を、アメリカ疾病予防管理センター(以下CDC)は「深刻」と判断した。
このほどアメリカ国務省が日本を渡航中止勧告の対象国に引き上げたが、五輪選手団の派遣には影響が出ないという。このことについては、同国のメディアも不思議に思っているようだ。
■五輪は例外扱い
24日にアメリカ国務省より自国民に対して示された、日本への渡航を中止するようにという勧告。ただし日本の五輪組織委員会の橋本聖子会長も丸川珠代五輪相も、アメリカオリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)の声明を元に、選手団の来日に影響はないとの見解を示した。
だが、アメリカの複数のメディアがこれに疑問を投げかけている。政府がすべての自国民に警告しているなか、「あなたたちは例外」と簡単に言ってのけるのはいかがなものか、というわけだ。
■ワクチン接種後も危険あり
アメリカの『NBC News』は、国務省が渡航中止の勧告を示すに至ったのは、変異株が日本で猛威をふるい始め、ワクチン接種を受けた人にも感染リスクがあるとCDCが判断したからだ、と強調。
東京など大都市はもちろん、マラソンや競歩が予定される札幌市でも緊急事態宣言が6月まで延長される見通しで、それを軽視して日本に飛ぶことに疑問を投げかけている。
海外選手団の大多数はワクチン接種を受けると考えられているが、義務ではないうえ、主流になっている変異株ではその効き目が下がるからだ。
■海外旅行保険にも影響か
『NBC News』は、こうしたなかで日本に渡航するなら、海外旅行保険の生命・医療保険金の支払い額に大きな影響があるだろう、それでも日本に行くのか「アスリートはよく考えるべきだ」としている。
欧米や南アジアに比べ、死者1万2,000人ほどという日本は、確かに数の上では新型コロナウイルスの感染爆発をうまく抑えているようにも見える。だが変異株の流行により、日本の医療体制はすでに強い緊張状態にあると伝えている。
■勧告の価値が下がる?
そもそも「ヒーローだから」という理由だけで、五輪選手団や関係者を例外扱いしてよいのだろうか。それを許せばアメリカでは、CDCの判断や、国務省の渡航中止勧告そのものを甘く考える国民や組織が増えることだろう。
たとえば、新型コロナウイルスの感染爆発が起きているインドにも、人命を救うためと渡航を決行する「国境なき医師団(Médecins Sans Frontières 略称:MSF)」のようなヒーローもいる。
五輪選手団や関係者を彼らと同じように考えるのは、驕りすぎではないだろうか。この件については、アメリカ国内でも議論が尽きないようだ。
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(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)