「日本政府が五輪開催を主張」と強調し始めたIOC 最悪の事態でも文句を言わせず?
新型コロナウイルスとの厳しい戦争が始まった日本。五輪中止もやむなしと言う人は増えているが…。
12日、オンラインでIOC国際オリンピック委員会・理事会に臨んだ東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長は、続く記者会見で「IOCの全面的な支持を得た」と述べた。
これにSNSなどでは「強引に開催しようとしているのはIOC。ピントがずれていて違和感がある」といった批判の声が漏れているが、その視点は本当に正しいのか、やや怪しくなってきたようだ。
■以前のIOC発言を引きずる日本
昨年9月、IOCのジョン・コーツ調整委員長はAFP通信の取材に、大震災や津波からの復興や、新型コロナウイルスに打ち勝った証として五輪を成功させたいと語るなど、日本政府の様々な取り組みを称え、応援するような大会にしたい旨を語っていた。
そのなかで「五輪までに新型コロナワクチンが行き渡っていれば理想。日本政府の取り組みに期待するが、ワクチンの有無、コロナの蔓延状況に関わらず五輪は開催されるだろう」などとも述べていた。
これらは今のインドの惨状を知る前の話で、その頃と今は全く状況が異なっているにもかかわらず、日本はコーツ氏の発言を延々と引きずっている印象がある。
■業を煮やしたIOCが提案
ところが日本のワクチン事情は予想外に悪く、業を煮やしてかIOCのトーマス・バッハ会長は今年3月、中国製ワクチンをIOC負担で五輪参加者の全員に接種したいと提案。
しかし、丸川珠代五輪相は「事前の相談もなく、厚労省の認可を受けていないワクチンなど」と述べ、日本は事実上その提案を断っていた。
その後、コロナ禍に対応するための厳密なプレーブック(規定集)を作る必要があり、「骨の折れる大変な作業だった」とやや恩着せがましく強調したIOC。「日本は意地ばかり張って、やるべきことをやらない」といった苛立ちすら感じられた。
■菅首相が「やる」と言うから…
五輪開催中止を求めるオンライン署名が海外でも認知度を上げているなか、今月8日、シドニーで行われた豪オリンピック委員会の年次総会の後、コーツ氏は「東京五輪は必ず開催される」と改めて発言した。
理由としては、菅義偉首相が渡米してバイデン米大統領に固い決意を伝えたこと、IOCにも変わらず開催への強い意欲を示していることを挙げていた。
海外には日本政府が「やる気マンマンだ」と伝わっているのだろう。ワクチンも整備されていない国が五輪の開催を主張するなど、狂気の沙汰だといった批判の声は今後もますます増えそうだ。
■これもひとつの戦争
じつは1年前の2020年5月、イギリスのBBCは「数千人という職員の雇用の関係で再延期は困難だが、中止の申し入れならIOCも受け入れるだろう。中止にしなければならない理由はバッハ会長も十分に理解している」という内容の記事を掲載していた。
開催まであと2ヶ月に迫ったなかで五輪中止を宣言すれば、「決断が遅すぎる」と世界中から強烈な非難を浴びるとビクビクしているかもしれない日本。
だが、変異株が大流行の兆しを見せ、基礎疾患のない若者でも重症者や死者が出るなど、ウイルスとの厳しい戦争が始まったことは、世界を納得させるには十分な理由だ。今や多くの海外メディアが「中止はむしろ英断だ」と書いている。
■IOCは支援する立場に?
開催の決定権はIOCにあり、大人しく従わなければならない日本は彼らの言いなりなどと叩かれているIOCだが、恐らく彼らは「開催にこだわったのは日本政府。こちらはそれを支援しただけ」と言うのだろう。
用意された文章を、静かな声で棒読みすることが多い菅首相。新型コロナの感染爆発が起き、医療崩壊が起き、医療保険財政が危機的状況に陥っても、「あなたたちIOCが必ずやれと言った」と反論するとは到底思えない。その大人しさで大丈夫なのかと、ただ不安だ。
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(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)