ドナーの新型コロナPCR検査は「偽陰性」 臓器移植中に執刀医が感染で患者も死亡
臓器移植による新型コロナウイルスへの感染について、「米国初の症例」がこのほど医学誌で明らかにされた。だが、疑わしい症例はほかにもあるという声も…。
新型コロナウイルスのPCR検査の感度は、現時点で70%ほどと言われている。感染後まだ時間が浅いなど、検体中のウイルス量が測定限界値より少なければ、陰性と判断されてしまうからだ。
その「偽陰性」の問題をどうクリアしていくか、臓器移植の医療現場にとっては大変重要な課題だという。ある症例について、『NEWS MEDICAL/LIFE SCIENCE』などが報じた。
■交通事故で脳死の女性から…
慢性閉塞性肺疾患(COPD)が重症化し、左右両肺の移植手術を受ける以外、助かる方法はないと診断されていた米国・ミシガン州のある女性。プライバシーを重んじ、ほかの情報は明らかにされていない。
昨年秋、交通事故で脳死した女性から両肺の提供されることが突然決まり、彼女はアナーバーにあるユニバーシティ・オブ・ミシガン病院で、移植手術を受けた。
ドナーから提供された肺については、深部から採取した液体により移植前の各種スクリーニング検査が行われ、すべて問題はなく、PCR検査についても陰性との判断が下っていた。
■3日後に発熱と呼吸困難
ところが、手術の3日後に移植患者(レシピエント)は発熱。血圧が下がり呼吸困難を訴え、新型コロナウイルスの検査をしたところ、陽性と判明した。
症状はみるみる悪化し、心機能低下も確認され、体外式膜型人工肺(ECMO)が装着されたが、レムデシビルほかの治療法は効果を表わさず、2ヶ月後に死亡。敗血症性ショックに伴う多臓器臓器不全を起こしており、救いようがなかったという。
■術前のPCR検査では陰性
じつは執刀医も移植患者が発症した翌日に体調を崩し、軽症の新型コロナウイルス感染症と診断されていた。移植患者は入院時の検査で陰性が確認されており、疑われたのはドナーから提供された肺だった。
同病院は、肺から採取して保管しておいた検体を再び検査。すると結果は「陽性」に転じていた。命を救う移植手術のはずが、患者はPCR検査の「偽陰性」の犠牲に。この事実は、医療スタッフや関係者に強いショックを与えたという。
■「あの時点で陽性であれば」
ユニバーシティ・オブ・ミシガン病院で臓器移植部長を務めるダニエル・コール博士は、この症例について査読付きの医学雑誌『American Journal of Transplantation』に報告。「あの肺が新型コロナウイルスに感染しているとわかっていたら、移植手術は行われなかった」と述べている。
臓器移植はスピードが勝負で、PCR検査の正しい判定を数日間かけて待つことには強いジレンマが生じる。だがコール博士は、ほかの臓器に関してはまだ不明な点が多いとしながらも、新型コロナウイルスに感染している肺は、移植を断念するよう強く警告している。
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(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)