症例56件のみの獣人化現象「ゾアントロピー」 自身を鶏と主張した女性を認定
まだまだ不明点だらけだと言われている「脳」。この現象も今後にさらなる研究が必要だという。
自身を獣人化させてしまう「ゾアントロピー(zoanthropy)」という現象をご存じだろうか。これを発症すると人間らしい声や言葉を失い、一定時間ある動物にそっくりになってしまうという。英メディア『The Telegram』などが報じ、大きな関心を集めている。
■珍しい精神・心理現象
ベルギーのルーヴェン・カトリック大学の研究チームが精神医学の専門誌『Tijdschrift voor Psychiatrie』に、「ゾアントロピー」という極めて珍しい精神・心理現象を発症した女性患者について論文を寄せた。
その診断が下ったのは、薬局に勤務する54歳の既婚女性。精神科の病棟で投薬治療を受けて数週間で退院し、1年後には仕事に復帰している。
■「私がまさかそんなことを」
言動が奇妙だとして、兄に連れられ病院を受診したというその女性患者。兄は医師に「鳥のように振る舞い、頬を膨らませてコッコッコと音を立てた」「雄鶏のような甲高い鳴き声を得意げに上げる様子に大変驚いた」と説明した。
女性患者は自分を鶏だと主張したが、強い痙攣発作を起こすと同時に、普段通りの人格を取り戻したという。
医師にそれまでの数時間の様子について尋ねられた当人は、足に不思議な感覚があることを説明。ただし鶏のような振る舞いについては記憶が乏しく、「自分がまさかそんなことを」と深く恥じ入った様子だった。
■妄想の中で自身を獣人化
ドラッグやアルコールは嗜まないが、数ヶ月前に最愛の家族を亡くして以来、うつ症状に苦しんでいたという女性患者。複数の医師が観察を続けた結果、妄想の中で自身を獣人化させていく「ゾアントロピー(zoanthropy)」と呼ばれる現象が起きたものと診断された。
これは統合失調症、精神病性うつ病、あるいは双極性気分障害などが認められる患者に稀に発症し、症状は1時間以上続く。農村部での発症例が多い理由なども含め、今後にさらなる研究が必要だという。
■世界でわずか56例
鳥ばかりか、ライオン、トラ、サメ、ワニ、ウシ、ネコ、ウサギ、馬、ヘビ、ネズミ、蝶になり切った例も確認されているゾアントロピー。しかし1850年から2012年まで、世界でわずか56しか症例が報告されていないそうだ。
犬の吠え声や仕草をとても上手に真似する者が、前世は犬だったに違いないなどと語ることがあるが、それだけでゾアントロピーとは診断されない。基礎に脳機能障害や精神疾患があることが前提になるという。
・合わせて読みたい→新型コロナ入院中、若い患者の様子に「焦った」 ラジバンダリ西井明かす
(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)