紛争地赴任のトラウマで「シャワーも無理」 家族も去った退役軍人の苦悩
世界の紛争地域で瀕死の重傷や事故を経験してきた退役軍人の心のケア。より長期のセラピーが必要なのかもしれない。
激しい戦闘が繰り広げられている危険な地域に派遣され、帰還する兵士たち。恐怖の光景は目に焼き付いたまま離れず、何年経っても苦しみがつきまとうという。
■世界の紛争地をいくつも経験
心身に大きな傷を負って帰還した兵士たちの苦しみや精神不安に向き合い、相談にのり、セラピストの紹介などを行っているイギリスの『Welldoing』。ここで紹介された、ニール・チャントリーさんという44歳の退役軍人の事例に人々の関心が集まっている。
ニールさんは英陸軍兵として務めた23年間のなかで、ボスニア、マケドニア、イラク、シエラレオネ、アフガニスタンなど世界の紛争地に送り込まれ、戦闘を含む危険な任務に就いていた。
だが2013年、ラフティングの訓練中にボートから投げ出されて死の淵をさまよい、そこで退役となったという。
■水を見ただけで手に震え
その事故をきっかけに、深刻な心的外傷後ストレス障害(PTSD)が現れるようになったニールさん。水を見ただけで恐怖に襲われるためお湯も沸かせず、入浴どころかシャワーも困難に。トイレですら手が震えるようになった。
事故や戦地で目の当たりにした恐怖の光景のフラッシュバックにより、常に精神が張り詰め険しい表情を呈していたニールさんは、せっかくの帰還にも妻と2人の娘たちに不安や恐怖を与えてしまい、家族は彼のもとを去っていった。彼女たちが自分に怯えていることは明白だったという。
■3年では克服できない精神不安
3年にわたる帰還兵向けのセラピー・プログラムを終えたニールさんは、ガス会社のエンジニア職を斡旋され、退役軍人を支援する雪上のレース『Walking With The Wounded』への参加も勧められたという。
だが3年のセラピーでは不十分だったのか、ニールさんは2017年に再び心身の不調をきたして引きこもってしまった。
転機が訪れたのは昨年8月。民間のセラピーを頼ってみたニールさんは人生を異なる視点から見つめる方法を指導され、そこで自信を挽回。このほどは一大決心となるカヤックへの挑戦を成功させた。
■日本でも自衛官が相次ぎ自殺
日本でもアフガニスタンやイラクから帰還した自衛官が、その後に相次いで自殺したことが大きく報じられていた。命の危険と脳裏に焼きついて離れない残虐な殺戮行為。すべての恐怖が、その後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に直結するのだろう。
戦闘経験が豊かな英陸軍部隊との共同訓練に力が入る日本の陸上自衛隊だが、兵士の心のケアに関しては万全なのだろうか。セラピーがそもそも暮らしのなかに浸透していない日本ゆえ、そのあたりの「手薄さ」がとにかく心配される。
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(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)