「足3本・陰茎2本でも産み育てたい」 妊婦の強い意思で寄生性双生児が誕生
奇形ではなく「奇跡」の赤ちゃん。ママはそう思ったのだろう。
超音波検査や胎児の染色体や遺伝子に異常がないかを調べる羊水検査などを経て、お腹のなかの赤ちゃんについて多くのことを把握できるようになった。しかし、もしも赤ちゃんに異常があると知らされたら…? 世の中にはこのようなケースもあるようだ。
■ロシア第一の名医が執刀
ロシアのモスクワにある聖ウラジミール小児病院。この大病院で、小児形成外科の分野ではロシア最高の権威と称えられるユリー・ソコロフ博士が、非常に複雑な外科手術を行っていたことがこのたび明らかにされた。
脚が3本とそれぞれに尿道を持つ2本の陰茎があり、しかし肛門は持っていない、そんな深刻な奇形を伴った男の子が誕生したのだという。
■母は強し…中絶手術を断る
赤ちゃんは昨年7月にロシアの田舎町で誕生した。母親は妊娠中から、お腹の中の子が大変な奇形を伴っていることを画像診断により知らされていた。
産科医は母親に「人工妊娠中絶手術は早いうちに」と助言したが、母親は「それはかわいそう。イヤです」と返答。産んで育ててあげたいという彼女の意思は固く、これ以降は堕胎が難しくなるという時期が来ても揺らぐことはなかったという。
■医療チームも全力
自然分娩により誕生した赤ちゃんは幸いまるまると太っており、肌の色つやもよかった。聖ウラジミール小児病院の医療チームも温かい心を持った母親の育児の姿勢に深い感銘を受け、「何としてもこの赤ちゃんに健康な人生を」と決意したという。
こうして難しい手術は無事成功。その男の子の体からは真ん中から生えていた余計な足、1本の尿道と陰茎が切除され、形成された肛門が正しく機能しているか経過の観察が続けられた。
■数回に分け行われた手術
執刀したソコロフ教授と助手のエフゲニア・カルツエバ博士は、その手術を振り返ってこう説明している。
「まずは排便できるよう、誕生後に緊急で肛門を形成する必要がありました」
「続いて今年2月、不要な陰茎と尿道を切除し、肛門を改めて正しい場所に設ける手術が行われました」
「私たちは、この赤ちゃんをきわめて稀な『寄生性双生児』の1例だと捉えています」
■寄生性双生児とは?
二卵性双生児の妊娠においては、片方がうまく育たないことが10~15パーセントの確率で起きており、初期のうちに母体に吸収され、1人だけ誕生することを「バニシングツイン」という。
問題は、その生き残れなかった側の胚芽や胎児が母体に吸収されず、もう片方の胎児の体に宿ってしまうこと。それが「寄生性双生児」と呼ばれる状態で、新生児50万人につき1人の確率で出現すると考えられている。
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(文/しらべぇ編集部・浅野 ナオミ)