京アニ火災で知る「心の支え」が簡単に壊される絶望 『聲の形』解説とともに
死者33人を数えた京都アニメーション火災。心に深いキズを負った、京アニファンは少なくないはずだ。
■「他者と理解しあうことの難しさ」
この作品では全編を通して、「他者と理解しあうことの難しさ」が描かれている。とくに秀逸なのが、いじめ被害者である硝子にも、責任の一端があると訴える登場人物が登場するところ。
被害者である硝子が責められる様子を観るのは正直かなり辛いが、綺麗事ではなく、あくまで登場人物がリアルであり、それぞれの主張を持っていることが優先されているのだ。
いじめは決して許されるものではないが、人間それぞれ違った弱さを持っており、ボタンの掛け違いからディスコミュニケーションが生まれ、相手を傷つけることもある……大人にとっても簡単には答えられない問いかけを、この作品は小学生および高校生たちを通じて、繊細に描いている。
アニメに対して、「大したことがない」という気持ちを持っている人には、ぜひ一度観て、確かめてほしい深さなのだ。
■無駄のない洗練された映像と音楽
この作品は観る者の感情を揺さぶるストーリーだけでなく、音楽(音とも言える)や映像表現においても非常に秀逸だ。
たとえば映像に関して言えば、開始2分頃から始まるオープニングの映像は、非常に完成度が高い。イギリスのロックバンドTHE WHOの楽曲「MY GENERATION」をバックに、小学生時代の将也の万能感にあふれた、悪ガキ感が無駄なく描かれていく。
映像と音楽のマッチ感が非常によく、このオープニングの間、セリフは一切ないにも関わらず、視聴者は将也のキャラクターを理解させられてしまう。
また、繰り返し作中で池や川、水溜りなどに飛び込むシーンが描かれる。美しい作画を堪能できるのはもちろんのこと、知らず知らずのうちに作品終盤の盛り上がりに繋がっていく。
余談だが、音楽好きで知られる山田監督は、前作にあたる『たまこまーけっと』『たまこラブストーリー』において、劇中歌の作詞にも携わるなどしている。またこの作品には「星とピエロ」という名のレコード屋が登場しており、ストーリーが展開する際に、音楽が重要な役割を果たすのもポイント。
アニメーションと音楽が高次元で混ざりあった、ひとつの極致が山田尚子監督作品なのだ。
■あなたにとって「心の支え」は?
あまりに完成度の高い作品の裏には、想像を越えた時間と努力の積み重ねがあったはず。しかし、それに対して一切なにも感じず、理不尽に破壊してしまう人がこの世にいる……繰り返すが、あまりに理不尽な現実だ。
今回、記者は『聲の形』を取り上げたが、当然ながら、『響け! ユーフォニアム』等、思い入れのある京アニの他作品は多い。読者の皆さんにとって、心の支えになっているのはどんな作品だろうか?
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(文/しらべぇ編集部・倉本薫子)