身の丈にあった造りで醸された『天神囃子』 新潟・魚沼から未来へ繋がる酒蔵の姿
新潟・妻有で地元の米にこだわる魚沼酒造を取材。
■豪雪地帯の大雪が酒の味の核
山々と信濃川に囲まれたこの地域は、妻有郷と呼ばれ、冬季になると2、3メートルもの雪が積もる豪雪地帯。じつはこの酒蔵を覆うように降り積もる雪は、酒造りに多くの恩恵をもたらしている。
「雪は暮らすものにとっては厄介な代物だけど、雪の安定した低温は酒造りに欠かせない麹菌や酵母などに最適な環境をもたらしてくれる。
同時に雑菌の繁殖を防ぎ、きめ細かい味わいを生み出す。新潟県の酒が淡麗といわれるのは、雪によって“低温長期発酵”が可能だからこそ」
と話すのは山口勝由社長。 魚沼酒造の日本酒は、淡麗辛口が多い新潟では稀な昔ながらの旨口が特徴。
春になり魚沼の山々から流れる豊富な雪解け水はミネラル分の少ない軟水であり、この軟水を仕込み水として使うことで、まろやかでキレのある味わいの日本酒に仕上がる。
■米のうま味を出すために原料にこだわる
米のうま味が最も感じられる旨口。だからこそ、山口社長の酒米への愛情はとにかく強い。
「水は酒造りにとって必要不可欠ですが、それは米も同じ。蔵と同じ地域で収穫される米も同じ水で育っているのだから、酒造りとの相性が悪いわけがない。
米は昔から私たちにとって大事なものだった。だから米を大事にきちんと活かすのが、酒蔵としては当たり前のこと」
酒造りに使う酒米のうち五百万石や越淡麗は新潟県産の良質なものを厳選。生産量の少ない亀の尾は、同じ水脈が流れている十日町市の農家と契約栽培にこだわっている。
「地元の酒米にこだわる清酒蔵も増えてきた。地元の米で醸してこその地酒だと私は思う。うちは弟に造りを任せているけれど、お互い流行りに乗らない身の丈にあった酒造りをしようといつも話し合います」