新潟の厳冬を生き抜く知恵を酒づくりに 豪雪地帯・小千谷『高の井酒造』のアイデア
自然の力を活かした「雪室貯蔵」で、さらなる美味しさを追求。
■風習から生まれた雪国ならではの日本酒
県内には雪室貯蔵を行う蔵は、いくつかある。が、じつはその貯蔵をまず形にしたのは高の井酒造だった。
「雪国では冬を越すために、野菜を雪の中に貯蔵する風習があります。雪下人参や大根を作っているのを見て、日本酒もできるんじゃないかと思いついた。30年ほど前、まだ雪中貯蔵に取り組む蔵はなく、試行錯誤で始めました」
まずはタンクを外に出し、生酒を詰めて、その上に雪を被せて山を作り、100日間囲って様子を見る。当時は商品化するつもりもなく、雪の中でお酒はどうなるかという好奇心のみ。
100日後、タンクを掻き出し、酒を計測してみた。すると驚いたことに、雪中貯蔵する前後でアルコール度数も日本酒度、酸度、アミノ酸度も、数値の変化は全くなし。
しかし口に含むと明らかにまろやかになっており、とろみさえ感じたとか。
■ニュースがきっかけで話題に
「しぼりたての生酒と数値がほとんど変わらないのに、風味だけが化ける。こんな味わいは面白すぎる。せっかくだから商品化しようという流れになったのです」
新潟で面白い酒が生まれたというニュースはまたたく間に広がる。全国放送の報道番組でも取り上げられ、多くの問い合わせがあった。
今は純米吟醸用の1万ℓと純米大吟醸用の5000ℓのタンク2本で雪中貯蔵を行い、毎年5月にお披露目会を蔵で開催。そのイベントはあまりの人気で、200名の枠は争奪戦になっている。
「雪中は熟成するに非常にいい環境です。酒はストレスなしで、ただゆっくりと眠れる。それが、あのとろみあるまろやかな味わいを生むのです」
この商品には熱狂的ファンも多く、毎年3ヶ月で在庫切れになるそうだ。