東日本大震災で消滅した幻の「大堀相馬焼」が一新 職人たちの懸ける思いとは

双葉郡浪江町の伝統工芸品「大堀相馬焼」。福島第一原発より10キロメートル圏内に位置していたこの町で作られていた陶芸品とは?

2017/10/06 05:00

■職人たちが「あの日」経験したこと

志賀喜宏さんは、代々家業として大堀相馬焼の技術を伝承してきた岳堂窯(がくどうがま)の当主16代目。

震災を機に屋号を「あさか野」に変え、現在は郡山でオリジナル陶器の製造や販売を行っているという。

志賀さんに、窯業が再興するまでの道のりを聞いた。

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——あさか野焼とは?

志賀さん:大堀相馬焼の技法と、郡山の粘土を融合させた陶芸品のことです。今年で、生み出してから3年が経ちました。「あさか野」というのは郡山の別称です。


他のは震災以前と同じ名前で再開しましたが、自宅、工場、機械設備、事務機器など、震災ですべて壊れてしまうゼロからのスタートだったので、私はリセットの意味を込めて屋号を変えることにしました。


——震災が発生した当時は、どのような状況に?

志賀さん:工房はほぼ全壊し、建て替えるしか手段はない状況になりました。うちの陶器は衝撃に強いのですが、震災のあまりに強い揺れに、ほとんどの商品が割れてしまって。


翌日には町の防災無線から避難指示が出され、避難所へ。持って行けたものは、自宅にあった飲み物や風邪薬、灯油とやかんくらい。着の身着のまま避難し、最初はどうしたらいいのかまったくわかりませんでした。


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■被災後、7箇所を転々と渡り歩く日々に

——その後、現在の居住地・郡山に辿りつくまでは、どのような生活を?

志賀さん:翌日から1週間ほど近隣の小学校に避難し、次に同市の工業団地へ移動しました。


数ヶ月に渡って、廃校になった学校の体育館や仮設住宅、本宮市の一戸建などを借りて転々としました。郡山に落ち着くまで、7箇所の移動を繰り返しましたね。


その間、2013年4月1日に警戒区域の再編がされると、浪江町が「帰還困難区域」に指定される。浪江町へは帰れないことが決定的になったのだ。


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■新たな地で作品作りを開始

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それでも絶対に窯を再開したいという思いから郡山市内に物件を購入。2015年5月末に、念願の「あさか野窯」を開く。

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それまでの特徴であった「貫入」や「二重構造」(保温性を高めるため器を二層にする技法)といったシンボルへのこだわりを一新。

陶器たちは、デザインの形成から「素焼き」「本焼き」と二度焼かれて完成するまでに、1ヶ月を要するという。

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志賀さん:郡山の風をイメージして曲線を描いたり、町並みを意識して作ることがあります。自然をベースにデザインするのは、以前の制作と通ずるところがありますが、異なるのは材料。


大堀相馬焼に利用していた「青磁釉」(せいじゆう)という釉薬は、浪江町のみで採れる石が原料でしたが、放射能に汚染され、採掘することが不可能になってしまったんです。


代替可能な釉薬を見つけたり、これまで培った技法と郡山の素材を融合させ、『新たな焼き物』を生み出してくことは、非常に難しかったですね。


新たなスタートを切り、一歩ずつ試作に挑戦し、粘土や釉薬の調合を整えていった志賀さん。今では、工房で行なわれる陶芸教室に生徒を招くようになったという。

展示会には、「今朝、窯から出してきたばかり」という作品の姿も。

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最後に志賀さんに、故郷・浪江町についての思いを聞いた。

志賀さん:浪江町に戻れるものなら、戻りたいですね。浪江町に住んでいた人たちは、きっとみな、そういう気持ちがあると思いますよ。


それでも帰れない現実がある以上、「これも運命」と定めるしかありませんので、今は完全に諦めています。戻らない、絶対に。寂しさについて考えていたら前に進めませんし、どんなに大変でも自分の経験や技術を失うことはありません。


今は、この「あさか野焼」が郡山の特産品として親しまれ、新たな名物になるほどの存在にしていきたいと思っています。


イベントは、福島県郡山市にて10月10日(火)まで開催されている。この機会に東北へ行くチャンスのある人は、ぜひ足を運んでみてほしい。

【新生大堀相馬焼 展示販売会】
日時:2017年10月4日〜10月10日

場所:うすい百貨店 7階食器売場場催事スペース(福島県郡山市中町13-1)
アクセス:郡山駅より徒歩8分
出展:「大堀相馬焼」5事業者(あさか野窯、近徳京月窯、いかりや商店、菅原陶器店、半谷窯)

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(取材・文/しらべぇ編集部・大木亜希子

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Sirabee編集部

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