インドネシアで「吊り橋を修復するスイス人」がヒーローに
2016/10/07 05:30
『世界の果ての通学路』という映画がある。これはまったく整備されていない道を、毎日何時間もかけて通学する子供たちを撮った作品だ。
「舗装された通学路を通って学校に通う」ことは、世界的に見て非常に恵まれている。さらに都市部や農村部の区別なく、どの地域に住んでいても等しい水準の教育が受けられることも。日本の場合は、150年前の明治の元勲がこうしたことの重要性を理解していた。だからこそ教育インフラが整備されているのだ。
だが、国が違えばそうした事情も違う。
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■都市部と農村部の「教育格差」
インドネシアは、教育水準が低い国のひとつである。
確かに、ジャカルタやスラバヤなどの大都市に行けば学習塾が乱立している。日本からも公文式がすでに進出しているが、そうした塾に通えるのは都市部のミドルクラス以上の市民。
1日数ドルの所得水準でしかない農村部の市民にとって、学習塾などは別世界の話だ。それ以前に、インドネシアの農村部の子供たちは毎日命がけで登校しなければならない。
下の画像をご覧頂きたい。
これはジャワ島のとある地域の光景だ。ほとんど崩れかかり、ロープだけになっている吊り橋を子供たちが渡っている。中には恐怖で泣き出す女の子も。
インドネシアには、こうした吊り橋が多数存在する。日本と同じ「山脈のある島国」だが、そのインフラ状況は「劣悪」の一言。オランダ植民地時代からまったく整備されていない橋もある。
だが、そうしたことに中央政府は関心を持たなかった。ジャカルタ市内の地下鉄や高速道路の建設計画ばかりが優先され、農村部は常に置き去りだった。
■ひとりのスイス人が橋を造る
そんな状況が、ひとりのスイス人の行動により大きく改善されている。
トニー・ルッティマンはこの3年で、じつに60以上もの橋を建設。もちろんそれらは大都市の中ではなく、地方島嶼部の農村地帯での活動だ。
ルッティマンは東ヌサ・トゥンガラ州でも吊り橋建設の活動を行っているが、この東ヌサ・トゥンガラ州というのはインドネシアで最も開発が遅れている地域である。非常に険しい地形で、主要幹線もまともに舗装されていない。ここに何かを造ること自体が至難の業なのだ。
そうした中で事業を成し遂げているルッティマンは、今やインドネシア国民のヒーローと化している。
■官僚機構が壁に
ところが、ここに来て大きな壁が立ちはだかった。
橋を建設するための資材をインドネシアへ運ぶことは、ひとことで言えば「輸入」だ。そのため関税や輸入規制項目などの諸手続きがあり、しかもそれらの折り合いが難航しているという。
インドネシアは、官僚機構が複雑な国で有名だ。縦割り行政や窓口のたらい回しなども当たり前で、それがプロジェクトの促進を阻んでいる。
だが、インドネシア国民はルッティマンの味方。ソーシャルメディアでも「一刻も早くプロジェクトを進めるように」という声が相次いだ。その声が行政を動かしたのか、資材輸入に関する問題は事態が好転しているという。
こうした面での「投資」も、いずれは新興国ビジネスの開発につながっていくのだ。
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(取材・文/しらべぇ編集部・澤田真一)
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