地元「残して」声届かず 廃止決まったJR西・三江線の実情は
2016/09/27 11:00
■1日の利用客数は500人
中国山地の水を集めて日本海へ注ぐ「江川(ごうのかわ)」にとことん沿いながら走る三江線。鉄道ファンには愛されてきた路線だが、地元の利用は皆無に等しい状況が続いていた。
これを数値で示すと、100円の運賃収入を得るのにかかるコストは800円程度。1日1キロあたりの通過旅客数は50人未満といわれ、100キロ以上ある決して短くない路線全体で、1日あたりの利用客が500人ほどだったということになる。
500人という数字は、東京・山手線の電車11両編成で座席に座れる人の数とほぼ同じである。
■2回の災害不通、復旧に26億円
度重なる災害も、追い打ちをかけた。三江線では、2006年と2013年の2回にわたり大規模な災害に見舞われ、いずれも全線が不通になっている。復旧にかかった費用は、合わせて26億円ほど。復旧費用はJR西日本と行政で「痛み分け」。多額の公費が投じられている。
大赤字を生んできた上に利用客が少ない鉄道を復旧して維持する必要性を指摘する声が上がる一方、「鉄道を残したい」という行政や地元の思いは強かったようだ。
■乗車「ゼロ」の実情
とはいえ、現地の実情は数字以上に厳しいものがあった。今年6月、乗車したときの客数は、始発駅・三次(広島県)の発車時で5人。うち4人は鉄道ファンと見られる旅行者で、地元の利用は1人だった。
三次を発車した三江線は、江川に沿って走り続ける。沿線に民家が途切れることはないが、立派な道路が整備されていて、クルマが列車を追い越していく。三江線の列車は最高速度85キロだが、途中、山裾や川沿いにさしかかると、たびたび30キロ制限がかかる。とても勝負にならない。
■駅にも町にも人影なく…
昼食を取ろうと途中下車した駅・石見川本(島根県)に降り立つと、駅前の様子はご覧の通り。川本は沿線屈指の大きな町で、ハローワークや県の合同庁舎も置かれているが、まるでゴーストタウンである。
同駅で毎日、列車を出迎えて利用客に観光案内などを行っているボランティアの男性によると「青春18きっぷシーズンの休日には、一列車から100人が下りたこともある」というが、オフシーズンの平日ともなると、これほどに厳しい。
沿線の行政や住民でつくる三江線改良利用促進期成同盟会・三江線活性化協議会が運営し、同線の存続や誘客を盛んに訴えてきたWEBサイト「ぶらり三江線WEB」は、9月に入って急に更新が止まったまま。存続にわずかな望みを抱いていた石見川本駅のボランティア男性は、それでも毎日、駅へ出向いているのだろうか。ぜひもう一度、訪ねてみたいところだ。
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(取材・文/しらべぇ編集部・前田昌宏)
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