超絶ロングインタビュー 日本メタル界の重鎮ANTHEM柴田直人さんに会ってきた

君はANTHEMを知っているか?

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《9,000字超の超絶ロングインタビュー、一挙掲載!》

君はANTHEMを知っているか?

来年でメジャーデビュー30周年を迎える、日本メタル界を代表するバンドである。熱狂的なファンに支持されており、他のミュージシャンからもリスペクトされている。

1985年にメジャーデビューし、1992年に一度解散したが、2001年に再結成し、活動を続けている。やや自分語りになってしまうが、私は1988年、中学校2年生の夏に、NHK FMで彼らのスタジオ・ライブを聴いて以来の大ファンである。彼らの音楽に対する妥協のない姿勢、高い理想の追求、熱く滾る楽曲と演奏・・・。私は彼らを激しく尊敬している。毎日、彼らの音源を聴いているし、ライブも毎年ほぼ必ず通っている。

そんな彼らの最新作『ABSOLUTE WORLD』(ユニバーサルミュージック)が10月22日に発売された。オリコンでは、初登場16位という好成績。リーダーであり、ベーシストの柴田直人が癌を克服し、さらにボーカルに森川之雄、ドラマーに田丸勇が加入という大きなメンバーチェンジを経た後での初の作品である。森川は1988年から1992年の解散まで在籍しており、高く評価されていた。田丸勇は前任ドラマー本間大嗣が体調不良による無期限の休養期間に入った際、前作のレコーディングに参加。本間の正式脱退後はサポートドラマーとしてツアーにも参加していた。

結論から言おう。このアルバムは、ANTHEMファン、メタルファンでなくても、いま、聴くべき最重要アルバムであり、傑作である。そして、今回のメンバーチェンジは大成功だったことが証明された。過去最強の布陣による、妥協なき魂のぶつかり合い、化学反応、細部までのこだわり。究極の創作活動の結果生まれた「絶対的な世界」がここにある!

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我々しらべぇ取材班は、リーダーである柴田直人氏へのインタビューに成功した。メンバーチェンジや新作の話だけでなく、いかに組織を運営するか、新メンバーを発掘し、育成するかというビジネスパーソンにも役立つ話を聞くことができた。火傷しそうな熱のこもった、彼の声を聞いて欲しい。


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■音を出した瞬間にメンバーチェンジの決断は間違ってなかったと確信

常見陽平(以下、常見):あの、最初に、率直に感想を言ってもいいですか。今回のメンバーチェンジは、大英断だったと思います。

柴田直人(以下、柴田):ありがとうございます。

常見:メンバーチェンジ後、初のアルバム『ABSOLUTE WORLD』を発売と同時に聴きました。8月2日のクラブチッタ川崎でのライブも柴田直人さん側で観ていました。このメンバーだから出せる音だと思いましたし。柴田さんは、こういう音を出したかったのだと。

柴田:もちろん、意味のないメンバーチェンジはしたくないですからね。実はここ数年、いろいろ思うところはありましたから。

常見:あの、失礼ですけど、言っていいですか。私も実は、ここ数年、音源やライブから薄々感じていました。ANTHEMの音源やライブはいつも期待以上だし、クオリティは高い。毎回、ファンとして楽しんでいるのだけど、メンバーには何かこう不完全燃焼感があるのではないか、と。2008年の『BLACK EMPIRE』のあたりからではないかと思っているのですが・・・。

柴田:いや、厳密に言うと『IMMORTAL』のレコーディングの頃からでしょうか。2006年くらいですね。もちろんその時のベストを尽くすという意味では満足していました。

ただ、レコーディングやライブなどでもっと追求できたのではないかという思いもありました。

『IMMORTAL』の後、『BLACK EMPIRE』『HERALDIC DEVICE』とアルバムを発表してきたのですが、その過程で違和感みたいなものが徐々ですが加速していった感覚です。これはとても難しいところで、具体的に誰のどこが悪いというわけではなく、、でもバンドとして万事上手く機能しているわけでもないという。

常見:やっぱりそうでしたか。

柴田:その後、震災もありバンド周りで環境の変化もありました。ライブなどでも違和感はなかなか消えませんでした。

その過程で、本間君(前任のドラマー)が「このまま無理をしていくと肉体的に壊れてしまう」と感じたのです。解決策として、レコーディング中なのにも関わらず、彼を一年休ませるという決断をしました。荒療治でした。

その時はサポートという立場で田丸勇に叩いてもらいました。もちろん本間君には良いところが山程あるのですが、田丸のドラムを聴いて「若い奴ってすごいな!」とも思いましたよ。

常見:はい。前作の段階から、そしてライブでも田丸さんが新たな血をもたらしていると思いました。

柴田:ボーカルの坂本英三にも、当然いつかは年齢という壁があるわけです。ミュージシャン生命の中で彼にもやりたいことがあるということで、話をしながら、ここらで別々にやる方が良いと思いました。バンドにおいても、僕を衝き動かしてくれる何かが欲しかったですね。

常見:大英断だったと思います。ライブも音源も鳥肌ものでした。

柴田:レコーディング時には「これでよかったんだ」と思いましたね。夏のツアーの初日、名古屋のライブでも確信しました。ライブではウソをつけないですからね。おかげ様でお客さんもたくさん来て頂いて嬉しかったのですが、それは二次的なものであって、それよりも、納得のいくライブができたことが本当によかったです。音を出した瞬間の快感で確信しました。ゾクゾクきました。

常見:そう、ゾクゾクという表現がぴったりだと思いました。そして、何より柴田さんが気持ちよく演奏しているな、と。ずっとライブに通っているから、なんとなくですがわかるのです。2013年、2014年と札幌でのメタルイベント、HUMMERBALLでの柴田直人プロジェクトも観たのですが、日本発世界に通じるプレイヤーたちとの共演で、柴田さんが本当に気持ちよさそうにステージに立って演奏していて、感激しました。

柴田:感想のエントリー、読ませて頂きましたよ。ANTHEMじゃないからこその伸び伸びした気持ちもありました。下山武徳、島紀史、磯田良雄という、いつもと違う技術を持っているプレイヤーたちとANTHEMの曲をやる楽しさがありましたね。

常見:改めてANTHEMの曲っていいなと思いましたね。

柴田:彼らもANTHEMの曲をやりたいと言ってくれたのですよ。2013年は客席でギタリストの清水昭男が観ていて、彼はANTHEMの曲を再確認したと言っていました。今年はツインギターにして、清水もメンバーに加わってもらいました。

常見:清水さんは、ギター・ヒーローですよね。島紀史さんとのツインギター、素敵でした。とにかく、今、柴田さんが気持ちよく演奏して、ますます良い作品をつくり、ライブをしているのが何よりです。

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■創りたいという原始的な衝動こそすべて

柴田:バンドは、生き物ですからね。長い間にはいろいろな事があるわけです。10数年間、共に戦ってきた大切な仲間だけれど、いかんせんものを創る集団としては「死に体」になりつつあったなと。今のメンバーになって、互いに蹴り上げることで、化学反応が起きていきました。

常見:そう、化学反応が起こっているなと感じました。触発しあっているというか。ここ数年、柴田さんからは、何かを変えたいという想いを感じていたのですよ。例えば、『HERALDIC DEVICE』の「SIGN」のように作品に電子音を入れるなどの取り組みだとか、『BKACK EMPIRE』での「HEAT OF THE NIGHT」のような超高速ナンバーだとか。やはり、何かを変えようとしていたのですか?

柴田:とにかく、新しい取り組みで、創作意欲をわかせたいと思っていたのかもしれない。バンドの状態に十分に満足していない部分もあって、何か変化が必要だと思っていましたからね。まあ、とにかく全ては創作意欲です。創作は、創作意欲という初歩的な欲望からしかできません。僕の場合、弾きたいメロディーがあるという原始的な衝動がなければね。だから、僕は決して職業作家にはなれないし、技術だけを提供することもできません。実はブルースなども好きで、新しい切り口の提案はしていましたね。

最新作に関しては、別に新機軸なるものを取り入れなくても、「こういう曲をやりたい」という新鮮な気持ちでやりました。誤解を恐れずに言うと、まったく無計画にありのままの衝動だけで作ったアルバムです。

常見:やっぱりそうですか。夏のライブと新譜は「ほとばしっている」と感じました。衝動が伝わってくるというか。

柴田:またこの4人でANTHEMを名乗って活動できることは、嬉しくて仕方がないですよ。

○最新作『ABSOLUTE WORLD』 トレーラー


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■ドラマー田丸勇はなぜここまで成長したか?

常見:柴田さんは、メンバーの良い所を引き出す人だと思います。ミュージシャンではなく、ただの音楽ファンである私が言うのは大変に失礼なのですが、ドラマーの田丸勇さん、とても成長したと思うのです。以前、サポートで参加した時に観た時には、正直、ピンと来なかったのです。でも、いまは明らかにドラムの音が違うし、ステージングに華もある。そして、バンドのメンバーになっているなと感じました。一体感があるというか。

柴田:田丸には、僕はバンドのリーダーとして昨年から厳しく接しましたね。リズムだけではなく、自分の思うドラマー像をぶつけて、話し合いました。具体的には叩くフォームや、セッティングから。決して命令ではなく「こう思うけどどうだい?」という話をしました。

常見:『We Rock』でのインタビューでも読みました。例えば、ツーバスのセッティングに関するアドバイスですとか。面白かったです。

柴田:ヘルプでの参加ではないからこその厳しさです。ただのヘルプならそこまで踏み込みませんよ。今の若い人に対する指導としては少々厳しくかったかもしれませんが。でも、要求水準が上がっていくことに対して、田丸がどう捉えどうなっていくかを見ていました。ただ、一番見ていたのは、技術どうこうではなく、バンドに合うかですね。これは人と人とのマッチングでしかないです。自分たちよりはるかに若い田丸勇は、きっと徐々にでも意図を汲み取ってくれるのではないかと考えていました。その期待の裏返しとして、厳しい姿勢で接しました。

常見:凄い勢いでの成長を感じました。

柴田:元最年少メンバーの清水が帰り道にいろいろフォローしていたみたいですけどね(笑)。田丸は清水よりも若い。ただ、田丸君と呼んでいるうちは、遠慮してるのかなとも思ってね。「田丸」とか「勇」と呼ぶべきかな。まあそれが自然になるようにするには、僕たちはこういう人間だ、こう考えていると「さらけ出す」しかないのです。

バンドを続けるには、「誇り」がなければならない。そうじゃないと、何十年もできないですよ。僕らはこの通りです。好きならば「ありがとう」、嫌いなら「ごめんなさい」と。もし合わなかったら、加入することが互いにハッピーではないので。だから、さらけ出しましたね。

ただし、昭和の運動部ではないので、音楽以外のところでは無駄に厳しくしないことにしていました。去年の小さなライブハウスを回る秋のツアーの後には田丸を「メンバーにしていいな」と思いましたね。

常見:明らかにドラムの音が大きくなっていましたし、伸び伸びとプレイしていました。さらに、華がある。ライブでも、新譜でも日本のツーバスの可能性を感じました。新しい時代のツーバスだな、と。

柴田:田丸は近年のラウドロックに近いニュアンスを持っていますからね。ANTHEMに新しい要素を入れてくれているかなと。もっともANTHEMは今のラウドロックにはなり得ないので、そこは僕のかじ取りを間違わないようにしないといけないですけどね。田丸にはスタジオで、思うようにやってもらいたいと思います。


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■根性、姿勢に「こいつ、やるな!」 田丸勇をどうやって発掘したか?

常見:まさに、今日聞きたかったことの一つは、こういうバンド運営や、メンバーの育成の話だったのです。ANTHEMを昔から聴いている人たちは、会社で管理職になっている人も多いのですよ、年齢的に。部下がいて、彼らのマネジメントに取り組んでいますし、会社の採用活動に関わることだってあります。そもそも、なぜ柴田さんは田丸さんを発掘できたのでしょう?

柴田:彼は出会った当時は、夜叉のドラマーでした。共通の知り合いもいました。ドラムを聴いてみた最初の感想は「ああ、器用なんだな」「キックが速いな」くらいの印象でした。

当時のドラマー本間大嗣君が交通事故にあった後、ヘルプのドラマーをリストアップしました。ただ、彼らとのライブを想像してみても、ぴんとこない。そういえば、こいつがいるじゃないか!と思ったのが、田丸。知り合いを介して「2週間ほどしかないけど、どう?」ということで呼び出したんです。たまたまなのですが、男2人で木漏れ日がさすオープンカフェ(笑)。似合わない環境でしたね。

常見:・・・それ、こっそり覗き見したい光景ですね(笑)。

柴田:会った時の印象なんですが、ぎらぎら目から炎が出ていました。彼は「自分が合うかどうか、判断してほしい」「1週間で30~40曲は覚えられる。スタジオで、一度でいいから試してほしい」と言っていましたね。自信に満ち溢れていて、押しも強い。でも、不思議と嫌な気がしない。物腰は柔らかでした。

常見:彼からは、謙虚かつ真剣なオーラが出ていますね。

柴田:最初のスタジオは正直言うと、まだまだ駄目でした。まあ、知らない曲、新曲もあったので当然です。でも、よく覚えてきたなと思ったんですよ。

本人は言わなかったのですが、1週間部屋にこもって、トイレと寝る時間以外はANTHEMの曲聞いて練習していたらしくて。根性はあるなと思いましたね。前向きな姿勢を評価しました。単純に嬉しかったですよ。2週間でライブできるイメージに仕上げてきたんです。

その後、本間君を休ませる時点で再会したら、より人間的に成長していたんですね。田丸に自分のすべてをぶつけようと思うほどでした。彼以外はもはや、候補は浮かびませんでしたね。

常見:バンドのメンバーって、うまいだけではダメですよね。スタンスが大切です。特に何かを学ぶスタンスというのは大事かなって思うのです。田丸さんの話、企業が採用の面接で見るポイントと似ているなと思いました。用意してきた答を綺麗に言うだけの人は、落ちるのですよね、実は。しどろもどろになっても、必死に考えたことを伝えようとする人が評価されます。あとは、学ぶ姿勢ですよね。どれだけ貪欲に学び、成長したいと思うか。

柴田:ちょっと頭がよければ、とりつくろうのは簡単です。メンバーは、人生をかけて集まってきてくれているわけで、僕も自分のすべてをかけたい。僕なりに考えて気を使いながら、一緒に楽しくやりたい。自分が気持ちいいだけでは続きませんね。音楽でも、なんでもそうですけど、結局は「人」ですよ。

常見:想いを共有することは大事ですねえ。

柴田:他の選択肢がいくらでもある中、ANTHEMに人生の大事な時間を使ってくれる人たちに、ウソ偽りなく付き合いたい。誠実に付き合いたい。そう思ってます。

常見:再結成後のANTHEMはコミュニケーションを大事にしているように見えますね。

柴田:好きなメンバーとやってきましたからね (笑)。自分ひとりでできることは、たかだか知れていますよ。自分が憧れてしまうような人間とやりたいなと思っています。大事なのは技術だけでなく、パーソナリティーですね。メンバー、スタッフ全員が好きですよ。

常見:チームだなと感じます。過去のインタビュー記事で、楽器を持ちながらの会話を大事にしているというコメントを読みました。コミュニケーションを大事にしているなと感じました。

柴田:確かに大事にしていますね。

常見陽平_ANTHEMインタビュー


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■森川之雄とは、同窓会的な演奏をするつもりはない

常見:それにしても、こんなに納得のいくメンバーチェンジはありませんよ、古今東西のバンドにおいて。ボーカルが以前在籍していた森川之雄さんじゃなくて、新しい人なら、ANTHEMを拒絶していたかもしれません。

柴田:森川には、率直に話にいきましたね。森川も自分のいないANTHEMを見てきて、「このタイミングだ」と思ってくれたようです。再加入は森川にとってとても勇気のいる行為です。「ANTHEMファンだけでなく全ロックファンが納得する歌を必ず録るから」と話をしました。それこそ、以前、長嶋監督がFAで選手を取るときに「僕の胸に飛び込んできてほしい」と言った、あの気持ちですよ(笑)。そして森川も、自分のバンドを休止してANTHEMに参加してくれました。森川の歌には、満足しています。

常見:新アルバムでの森川さんは進化していると感じました。今までも、20周年、25周年といった記念ライブや、イベントで91年頃のANTHEMを再現する企画などはありましたが・・・。

柴田:企画ものは、企画ものなんですよね。再加入後、これまでの森川像の続きには期待しないと伝えました。『GYPSY WAYS』『HUNTING TIME』など、当時のアルバムの続きではない、今の森川之雄を聴きたいと。「何も考えずに体調だけ整えてきてください」と伝えました。

もちろんまだまだこれから先も追求していきます。宣伝文句のようですが個人的には「今が最強だ!」と思いますよ。レコーディング、リハしていてもひたすら楽しいんですよ。高校生がスタジオに入っている感じです。ただし高校生ではなく、メンバーそれぞれキャリアがある大人。心の底から楽しいと言える。これがロックバンドだと思う。

常見:本当、いいですよね。いまのANTHEM。

柴田:ANTHEMは真面目だからともすれば「軍隊っぽい」とも言われます。

常見:ええ。そういう評判は、以前からありましたね。

柴田:実際そんな事はありませんが、でも、好きなことやっているのだから、真面目なのは当然ですよ。この面子で本気でやっているステージを、見に来て欲しいです。アルバムも聴いて欲しいです。


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■頑張って続けているわけではない、ただ「好き」なんだ

常見:あの、今日、絶対に聞きたかったことがあるのです。柴田さんは、なぜここまで頑張るのですか?ANTHEMほど頑張っているバンドはないと思うのです。絶対に手を抜かないライブをやるし、毎回、セットリストを変えるし、客電がついていてもアンコールがあったら何回でも出てくるという。いつも聖地クラブチッタ川崎でのライブは熱気と殺気にあふれているなと思うのです。ステージのアクションにも、音作りにも、一切の妥協がないなと。なぜ、ここまでやるのですか?

柴田:まず、アンコールですが、求められることはミュージシャン冥利につきますよね。求められているなら、やろうかと (笑)。

もともとの質問については、「頑張って、頑張って、ここまでやっている」というわけではないんです。頑張るのが好きというよりも、好きなメンバーと、好きなことを追求するのは楽しい。ただ、それだけです。

常見:でも、「好きだからやる」と言っても、好きなことをやっているのに諦める人、疲れている人がいるわけですよ。なぜあそこまでやるのですか?

柴田:うん。僕自身も、好きなことでも精神が疲弊したことはありますよ。92年にANTHEMを一度解散したときは、若気の至りだったと思います。バッドボーイミュージックなどが流行ると、メタルバンド周辺からはこれほど人が消えるのかとも思ったし。ロックバンドって割に合わないと思って、若いころは一度、辞めました。でも音楽しか僕はできないわけで。だからANTHEMを再び始めました。「どんなことがあっても解散だけはしない」とその時、決めました。休んだとしても、解散だけはしない。やる以上、とことんこだわってやる。当然、嫌なことには死ぬほどぶち当たると思いましたよ。

常見: 8月2日のライブのMCでもふれていましたね。続けることは大変だと。

柴田:でも、覚悟したんです。メンバー、スタッフといったANTHEMに関わったすべての人がよかったと言ってもらえるように最大限の努力をしようと思ったんです。自分の心を救えなくて、人の心なんて救えないとも思いましたね。再結成以降、自分の好きなことしかしないという気持ちは強いですね。楽しむためには徹底的にこだわろう。徹底的にこだわってやると、結果がどうなろうとも二度と味わえない感覚を味わえるというかね。楽しむためには、こだわりぬく。中途半端は楽しくない。人に対して、厳しくというわけではないけれどね。

自分の中の満足感のハードルを上げていますね。その姿勢を見て、いろんな人がついてきているのかなと。当然、ウソはだめです。自分にウソはつけない。人を欺くのもだめです。たとえ損だと言われようが、こだわってやっていくことが自分の心を救い、それをみて、ついてきた人とスクラム組むのが楽しいですね。その決意で再結成しました。

常見:少し話を戻すと、以前のANTHEMのインタビューで、北海道を札幌、旭川、北見と数カ所ツアーで回った時には、全部見ているファンがいるから毎回MCを変えるようにと指示をしたというエピソードが紹介されていました。ANTHEMにプロを感じた瞬間です。

柴田:どんなことでもいいんです。やるからにはこだわりが大事かなと思うのです。

余談ですけど、中学生の頃、外道のライブを地元北見で観たのです。こんなド田舎でも全力でやってくれていることが嬉しかったんです。ステージから降りてきたボーカル&ギターの加納秀人さんにみんなが群がったんですよね。僕は手伸ばしてストラトのペグに触って、ゲンコツをくらいましたよ(笑)。クラシック・ロックジャムでお会いした時に伝えたのですが、向こうは覚えてなかったです。僕にはいい思い出です。地方でも決められたMCをかまずに言うのではなく、その地方で感じたことを伝えるのは大事だと思うのですよね。

常見:新日本プロレスのIWGP世界ヘビー級チャンピオン棚橋弘至さんも同じようなことを言っていました。子供からの握手をお願いされたら、絶対に断らないと。その子にとっての一生ものの、宝物の体験ですし。


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■ たいそうな夢はない 目の前のことを全力でやる

常見:もはや、再結成してからの方が長いのですよね。2001年ですから。その前身のグラハム・ボネットを迎えた企画が2000年です。

柴田:もう、再結成という言葉はいらないですね。

常見:どのバンドも一度解散や、大きなメンバーチェンジがあっても、長く続けていますよね。

柴田:LOUDNESS、44MAGNUM、EARTHSHAKER、SHOW-YA・・・。まだまだあるけど、頑張っているバンドがいっぱいいますよね。みんな自分に正直に演っていると思います。じゃないとなかなか支持がされませんよ。

常見:今の夢は何ですか。

柴田:そんなたいそうな夢はないですよ。このアルバムを皆さんに聴いてもらうこと。このアルバムのツアーを僕らが納得したかたちで終えること。一番好きなアルバムは最新アルバム、一番印象に残るツアーは今度のツアーと答えられるようにしたいですね。

常見;目の前のことに真剣に取り組んでいらっしゃるのだなと、すごく感じます。

柴田:10年後のために掲げた大きな目標に向かって頑張るようなことは難しいですね。それは僕には無理です。今を頑張る。それしかないですね。

常見:ありがとうございました!ライブ、大変に楽しみにしております!

(2014年10月22日 ユニバーサルミュージックにて収録)

柴田直人さんの重みのある言葉に圧倒された1時間だった。このインタビューを読んで、熱を感じた人に言いたい。ぜひ、新譜を聴くのだ。ライブにも行くのだ。私は、毎日この新譜を聴いている。そして、聖地川崎のライブにも行くつもりだ。会場で会おう!

○『SHINE ON』(最新アルバムから)

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(文/しらべぇ編集部・Sirabee編集部

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